おはようございます。白猫なおです。早い物で十四章です。タイトルはもしかしたら後々変更するかも知れません。良い物が思いつかなくって……自分の性格上このままいく可能性大ですが……。応援して下さる皆様に感謝のSS送ります。
【アーロン、ベン、チャーリーSS】
ユルデンブルク領民騎士学校を無事に卒業し、スター商会に勤めてから早半年、アーロン、ベン、チャーリーは仕事にも、寮での生活にも、そして友人関係にも満足した日々を過ごしていた。
定休日前夜になればスター商会では良く飲み会が開催される。
宿泊するようなスター商会と縁の有る客が来れば勿論の事。従業員の中の誰かが誕生日であればお祝いだという名の飲み会が開催されるし、子供たちの入学や進学、それからこの前は護衛の先輩モンキー・ブランディのブランディさんが奥さんに好きと言われたと言っておめでとう会とやらを開いていた。
それぐらいスター商会の従業員達は仲が良く、皆集まって話をするのが好きだ。
そんな中アーロン、ベン、チャーリーの三人はお年頃で、従業員の中に可愛い子が居ればやっぱり意識もするしときめくもので、今日もアーロンの部屋に集まり恋バナで盛り上がっていた。
「しっかしよー、ルイの兄貴に婚約者がいるって信じられないよなー、俺達と同い年だぜー」
アーロンの言葉にベンとチャーリーが頷く。
ルイはこの三人から見れば小柄で童顔だ。ハッキリ言ってしまうと成人しているようには見えない。
貴族では婚約者がいる事は当然だが、それでもあの可愛いルイの兄貴に婚約者がいるだなんて……と羨まし過ぎて仕方がない三人だった。
「セオの兄貴はララ様しか見えてないしなー」
ベンの言葉に他二人が頷く。
セオは護衛だとしても守るべき主であるララ様にべったりだ。それにララ様を見つめる目には優しい物があって、他のものを見るときと全く違う事を三人は知っていた。でも魔獣を見つめるときはララ様枠だけれど……
「じ、実はさー、俺好きな子ができてさー」
「「えっ?!」」
チャーリーの言葉を聞いて、アーロンとベンは驚いた。
何故なら自分たちも今日その話をしようと思っていたからだ。つまりルイとセオの話しは前振りだ。自分の話を持っていきやすくする為だった。
「お、俺も……好きな人出来たんだ」
「俺もだ! 何だよ! なんだ皆一緒じゃねーかっ!」
アハハハハと笑い合った後で、三人はハッとした。
まさか同じ人物を好きだとは言わないよな? と牽制する意味も兼ねてそれぞれの好きな相手の特徴を話すことになった。
その結果、アーロンはかなり年上、ベンは年下、チャーリーは少し年上と分かり、ホッとする三人だった。
そして酔った勢いもあってか、三人とも好きな相手をデートに誘う約束をした。
手を握りあいお互いの健闘を祈った夜となった。
【アーロン、ベン、チャーリーSS②】
昨日の夜、友人であるベンとチャーリーと男同士、恋バナで盛り上がったアーロンは早速意中の相手を、今度の休みにデートに誘おうと朝から緊張気味でいた。
身だしなみを普段以上に整え、今日は副会頭であるリアム様と同じ香水を使ってみた。
アーロンの恋の相手は年上の女性だ。成人仕立てのアーロンだが少しでも大人びて見えるようにと見た目からまずは努力してみた。
学生時代は体が大きくって大人びて見えてしまう風貌に少しコンプレックスがあったアーロンだったが、恋を知った今は違う。老けて見えることに感謝したいぐらいだった。
「アーロン、お前今日は香水付けているのか?」
「あ、リーダー、おはようございます! はい、少しだけ付けました……」
「ふむ……そうか……お前、今日はスターベアー・ベーカリーの護衛では無いよな?」
「はい、今日はスター・ブティック・ペコラの護衛です」
「そうか、なら良い。飲食店の護衛の時は香水は禁止だからな、覚えておけよ」
「は、はい、気を付けます」
普段やり慣れない事をするとやっぱり失敗するもので、護衛は守ることが仕事、香りの付くような物を付けてはいけなかったなとアーロンは反省した。
だが、ここ迄来ては後には引けない。折角気合を入れたのだ、絶対に彼女をデートに誘うぞと、ベンとチャーリーとの友情に誓った。
昼休み、そっとスター・ブティック・ペコラの休憩室を覗いて見れば、意中の相手は丁度一人だった。アーロンは深く深呼吸をし、そっと彼女に近付いて行った。
アーロンが来たことに気が付くと彼女は笑顔を向けてくれた。その表情を見ただけで今日一日が幸せな日になった気がした。
「アーロン、休憩? 食堂には行かないの?」
「あ、あの、俺、キャーラさんに話があって……」
「フフフッ、なあに? 恋の相談でもしに来たの? 良いよここに座って、話をしましょう」
キャーラは自分の隣の席をポンポンと叩き、アーロンに座る様にと手招きをした。
アーロンは緊張で同じ方向の手足が出てしまいながらキャーラの隣に座ると、頬杖をつく妖艶なキャーラに視線を向けた。
その色気にアーロンの鼓動はこれまでにないほど早く鳴り、どくどくと鳴る自分の心臓が五月蠅くて、周りの音が聞こえなくなるほどだった。
それに口から心臓が飛び出しそうという言葉を今まさに体験できていると、不思議な感動が溢れるぐらいだった。
ううう……キャーラさんめっちゃいい匂いがする……それにスゲー綺麗だ―。
「あ、あの! キャーラさん……俺」
「よう、キャーラ待たせたなー、昼飯行こうぜー」
「ゲイブ、遅かったじゃない」
「ゲ、ゲイブさん……?」
ゲイブは休憩室に入ってくると、キャーラの側に行って彼女を抱きしめた。一緒にお昼ご飯を摂る約束をしていたようで、その仲の良さを見れば二人の関係はアーロンにはすぐに分かった。
あんなに五月蠅かった胸は今はチクチクと痛みだしていた。アーロンの恋の相手であるキャーラにはもう既に決まった相手がいた様だ。
「ゲイブ、ちょっと待って、今あたしアーロンの相談に乗るところだったんだからー」
「おお? なんだアーロン、キャーラに相談って事はもしかして女の話か? ハハハッ、なんだー、お前も隅に置けねーな―」
その後の記憶がアーロンにはない。
キャーラとゲイブには何とか誤魔化しながら会話をし、午後の仕事は無難に終えたとは思う。
アーロンは気が付けば自室のベットの上だった。
告白も出来ず終わったアーロンの初恋は、リアムの香水の香りの想い出となった。
【アーロン、ベン、チャーリーSS③】
ベンは緊張していた。
同期で友人のアーロンとチャーリーと好きな相手をデートに誘うと約束したが、ベンの相手はまだ成人前の女の子だからだ。
見た目が強面のベンはハッキリ言って年齢よりも年上に見える。そんな自分が年下の女の子に声を掛けたら怖がられるのではないかと心配があった。
小さな頃から怖い顔で女の子には良く泣かれていた。
騎士学校時代などはそもそも女の子自体と縁がなかった。
だからもしデートに誘っても、それが怖いから了承してくれたとなったら、ベンはショック過ぎて寝込んでしまうのではないかと、自分の事ながら不安になっていた。それぐらい女の子に苦手意識があったのだ。
彼女は今学生で、毎朝スター商会の門をくぐり、合い馬車に乗って学校へと通っている。
朝護衛として顔を会わせると、彼女は可愛い笑顔で挨拶をしてくれる。そんな彼女の笑顔を見ているうちに、いつしかベンには恋心が芽生えていた。
誰かを……女の子を好きになるなんて初めてだ……
そうベンには彼女が初恋だった。
「ベンさん、ただいま帰りました」
「ああ、リ、リタ……お帰り」
仕事をしながらリタの事を考えて居たベンは、学校から帰って来たリタに声を掛けられ、飛びあがりそうなほど驚いた。平常心を装い笑顔を向けたが、リタの様子がおかしい事に気が付いた。
それに普段ならタッドやゼンと一緒に帰ってくるのに今日はリタ一人だ。ベンは今日の仕事の相方のノーランに声を掛け、様子の可笑しいリタを転移部屋迄送ることにした。
リタは遠慮していたが、その元気のない姿を見ればベンだけでなくノーランも心配になる程で、見逃すことは出来なかった。それにリタはなんと言ってもディープウッズ家の養い子だ。ララ様にとって大切な家族だ。護衛としても送るのが当然の仕事だろう。
転移部屋に着くと、ベンは思い切ってリタに声を掛けた。
今ならば二人きり、何でも話を聞くとリタに話しかければ、リタはポロポロと涙を流し始めた。
「ベンさん……優しいんですね……有難う……」
涙を流しながらそっとそう呟いたリタは、とても可愛くって、ベンの鼓動はどくどくと早鐘を打つかのように鳴り出した。
デートに誘うのならば今がチャンスかもしれないが、悲しんでいる女の子の弱みに付け込むようで、ベンには出来なかった。
暫く沈黙が続くと、そっとリタが話しだした。
「私……タッドの事がずっと好きで……でもタッドはララ様の事が大好きだから……だから希望は持たないようにして居たんだけど……今日タッドからララ様を卒業パーティーに誘ったって聞いて……苦しくなって……」
目に一杯涙をためて無理に微笑むリタを見ると、手を伸ばし抱きしめたかったが、ベンにはそれが出来なかった。
リタは話を聞いてくれてありがとうと言うと、転移してディープウッズ家へと戻っていった。きっと自室で一人涙を流すのだろう……
そう考えるとベンはリタをデートに誘う気などもう起きなかった。ただ元気を取り戻してくれたならば、それだけで良いとそう思った。
チリチリと胸が痛んだベンの初恋は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
この恋の行方はこれから先どうなるかは誰にも分からない事だろう……。
【アーロン、ベン、チャーリーSS④】
「ヨハナさん、おはよう」
「チャーリー、おはよう。今日はスター・ブティック・ペコラの担当なのね。護衛宜しくお願いね」
「はい、任せて下さい!」
チャーリーは少し年上のヨハナに恋をしていた。
ヨハナはいつもスター・ブティック・ペコラの護衛にチャーリーが着くと、こうやって声を掛けてくれる。
それに休憩に入るタイミングが合うと、お菓子などを出してくれたり、お茶も準備して労ってくれるのだ。
そんな事もあり、チャーリーはヨハナも少しは自分に好意があるのではないかとそう思っていた。
なのでアーロンとベンと盛り上がって約束したデートに誘う話も、案外ヨハナと恋人として上手く行くいいきっかけになるのではないかとそう思っていた。
その上今日は何と言ってもスター・ブティック・ペコラの護衛だ。ヨハナと休憩が重なる可能性は大きい、ここでチャンスを生かさなければ、また暫くはデートに誘い辛くなってしまうだろう。チャーリーは今日は絶対に! と気合が入っていた。
「ヨハナさん、休憩ですか? 俺も一緒に食堂に行っても良いですか?」
「チャーリー、ええ一緒に行きましょう」
嬉しそうにニッコリと微笑むヨハナを見て、チャーリーはやっぱり自分に気があるのではないかと思った。食堂に向かう間も、ヨハナは「護衛の仕事は素敵よね」と意味深な事をチャーリーに言ってきた。
もうこれは確実に両想いだろうと、チャーリーは確信した。
「あ、あの、ヨハナさん……」
「チャーリー、なあに? どうしたの? あ、もしかして唐揚げが一つ欲しいのかしら?」
ヨハナはフフフッと笑いながら自分の唐揚げを一つチャーリーのお皿に乗せてくれた。もう既に恋人の様では無いかとチャーリーの気持ちは高ぶった。
今ここでデートに誘わなければ男として恥ずかしい、チャーリーはごくりと唐揚げを飲み込むと、再度ヨハナに話かけようとした。
「あ、あの……」
「ヨハナ!」
「ジュリアン様」
副会頭のリアムの護衛であるジュリアンが食堂へとやって来ると、直ぐにヨハナに声を掛けてきた。するとヨハナの表情がぱああっと花開いたように可愛らしく明るくなった。
ジュリアンを見つめるヨハナの瞳は熱っぽく、先程までチャーリーに向けていた物と全く違う、それに頬はピンク色に染まり、恋する乙女その物だった。
チャーリーはここで初めて自分の勘違いを理解した。
「ヨハナ、今度の休みの予定は?」
「あ、はい、少し午前中は刺繡の勉強をする予定です……」
「じゃあ、午後は開いてるかな? 良かったらまた買い物に付き合って貰いたいんだ」
「はい、勿論、喜んで……」
「良かった、じゃあ、俺は仕事に戻るよ……あ、今日のそのリボンやっぱりヨハナに良く似合っているよ」
ジュリアンはそっとヨハナの髪に付けているリボンに触れ、笑顔を浮かべるとその場を離れていった。よく見ればヨハナの今日のリボンは、ジュリアンの髪の色そのものだった。
チャーリーはそこで自分の失恋を知った……
☆☆☆
そして今夜はスター商会定休日の前日。
アーロン、ベン、チャーリーの三人はまた一室に集まり酒盛りをしていた。ただ先日の様な盛り上がりは今日は無い。三人とも肩を落とし、ションボリとしている。それだけでお互いに何があったかは理解出来た。
今日はいつも美味しくて仕方ないスター商会のお酒が、ちょっぴり味気なく感じた。
「俺……いつか運命の相手に出会えるまでに、もっと強くなる様に頑張るよ……」
三人の内の誰かがそんな事をポツリと呟いた。気持ちは同じなので残りの二人も無言で頷く。
どうやら今はまだ自分達には恋の季節がくるには早すぎた様だ。一人前になって出直そうと三人がそう思う夜になったのだった。