2月14日、バレンタインデーですね。いつも読んで下さっている読者様に感謝の気持ちを込めましてSSを贈らせて頂きます。(=^・^=)
【ジュリアンSS】
ジュリアンにはずっと好きな人がいた。
美しく、聡明で、優しくて、芯が強い……彼女はそんな素敵な女性だった。
見ているだけで幸せで、自分の物にしたいなど考えても居なかった。
けれど……
その女性が婚約をして、初めて見ていただけの自分に後悔をした。
恋人になれなくても、もっと仲良くなれるように努力して居れば、何か違ったかもしれないと、自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
主であるリアムに「次の恋はもっと始めからアピールしろよ」と励まされたのだが、次があるとは到底思えなかった。自分の世界はこのまま真っ黒な闇の中ので終わるようなそんな気がしていた。
彼女以上の存在が自分の中に芽生える事はありえない気がして、時間がたった今も失恋を引き摺って過ごしていた。
勿論護衛としてそんな姿は主にも誰にも見せはしなかったけれど……
密かに仕事に生きて行こうと決意していたジュリアンだった。
主であるリアムの仕事の中に、毎日の各店舗への見回りがある。
勿論出かける日などは無理だが、リアムは各店舗の様子を自分の目で確認することを怠らない。ジュリアンは護衛として常について回るのだが、存在を出来るだけ消して空気として後を付いている、だがその日は周りの雰囲気が違った。特に女性が……
スター・ブティック・ペコラへ行くと、年上のお姉様方であるキャーラ、ビオラ、レベッカ、マルタが仕事の合間を縫って、リアムでは無くジュリアンに話しかけて来た。
そしてそっと小さな包みを渡して去って行ったのだ。マルタに至ってはジュリアンの頬に口づけ迄落としていった。(一体今日はなんだ?) とジュリアンは顔を赤くしながら困惑した。
スター・リュミエール・リストランテでもスターベアー・ベーカリーでも女性従業員達がジュリアンにチョコのお菓子を渡してきた。意味が解らなくて首を傾げて居ると、何かを察したリアムが「バレンタインの友チョコだろう」と意味不明な事を教えてくれた。
(バレンタイン……それはなんだ?)
休憩時間になりお昼を摂りに食堂へと向かった。
ジュリアンはそこで裁縫室で働く中の一人であるヨハナが目に入って、バレンタインの事を聞くことにした。ヨハナは頬をピンク色に可愛く染めながらジュリアンに教えてくれた。
「ララ様が……好きな人に感謝する日だと教えてくれました」
「感謝?」
「それに友人にも……」
「友人……」
つまり今まで渡されたプレゼントは友人たちからの感謝という事か……
いや自分の気持ちを知っての励ましの贈り物かも知れないな……
ジュリアンは何だか心がホットチョコでも飲んだかの様な気持ちになった。温かくくすぐったいそれでいて心地いい……自分はいつの間にかこんなにも女性の友人がいたのかと、嬉しい気持ちになっていた。
するとヨハナも皆と同じようにジュリアンに可愛らしい包みを差し出してきた。グランカの花の様な真っ赤な顔をして……
「こ、これは……ナッティーに教わって私が作りました……良かったらジュリアンさん、受取って頂けますか?」
「ヨハナ……有難う、嬉しいよ」
「良かった……」と口元を抑えながら呟くヨハナを見て、ジュリアンは胸が弾むのが分かった。あんなにも暗く冷え切った心の中が、急に春の日差しでも浴びたかの様な温かい気持ちになった。嬉しそうに微笑むヨハナがとても可愛かったからだ。
この気持ちが恋なのかはまだジュリアンには分からなかった、けれどヨハナから貰ったチョコレートが一番美味しかったのは間違いないのだった。