読者の皆様いつも応援ありがとうございます。
早い物で一月もあっと言う間に終わってしまいましたねー。
二月も毎日投稿続けてまいりますので、お付き合い宜しくお願い致します。(=^・^=)
感謝を込めましてSS贈らせて頂きます。
【マティルドゥSS】
「うわー! 鬼娘が来たぞー! みんな逃げろー!」
シモン家の一人娘のマティルドゥは、勝気な性格と、武術、剣術を小さな頃から習って居た事から、近所でも、道場でも ”鬼娘” と揶揄されていた。
発端は初めて出た小さな武術大会だったと思う。
家格の高い家の三男坊だか、四男坊だかがその大会に出場していた。それも優勝候補として。
けれどマティルドゥはその子に簡単に勝ってしまったのだ。
相手は年下の、それも女の子に負けて、その上尻もちをついて会場中から笑われたことでマティルドゥを逆恨みした。
暴力的で、性格が悪い鬼娘だと、同級生や貴族の集まりで噓の噂を言い触らしたのだ。
幼いマティルドゥにはとても辛い現実が待っていた。
仲が良かった女の子の友達は、自分の評判が落ちることを恐れマティルドゥに会わなくなった。貴族社会は評判や噂にとても敏感だ、鬼娘の友人という事で嫁ぎ先が無くなる事を親も本人も恐れたのだろう、それは分かる。
貴族の子息達も従順な妻を求める者が殆どだ。気が強く武芸に優れている鬼娘などと婚約など以ての外だろう。
近所の子供たちもどこで噂を聞きつけたのか、機嫌で暴力を振るう女の子だという噂を信じ鬼娘とからかうようになった。
この噂のせいでマティルドゥは自然と家に籠り自分を鍛えることに力を注いでいくことになった。
自分にはもうこれしか無いのだからと……隠れて泣きながら……
ユルデンブルク騎士学校に通いだして状況は一変した。
あれだけ ”鬼娘” とからかってきていた男の子達が婚姻を申し込んできたのだ。離れて行った女友達も連絡をよこすようになって来た。
そうディープウッズ家の名に釣られて……
お見合いを申し込んできた鬼娘の噂の元凶となった相手に、父親は怒って断り状をかいた。それもかなり好戦的に。
マティルドゥの家より家格の高い家だが厚顔無恥も甚だしいと怒り心頭で、送られてきた手紙を破り捨てていた。
マティルドゥも手のひらを返してきたかのように友人ぶる女の子達の誘いを断った。もう友人とは思えなかった。本当の友人は苦しい時こそ傍に居てくれる者だと、ユルデンブルク騎士学校で仲間と出会ってそれに気が付いた。
それにもう自分は一人では無いと分かったから……
「ルイ……私鬼娘なのよ、それでも良いの?」
ルイに卒業パーティーで結婚を申し込まれた。
今までルイは何故マティルドゥが鬼娘と言われているか意味を知らなかっただろう。
けれど結婚すれば嫌でも噂は耳に入る、気が強いとか癇癪もちとか暴力的で自己中……散々なマティルドゥの噂を聞いた時、ルイが嫌な思いをしないかだけがマティルドゥは心配だった。
「鬼娘……? 何だそれ、カッケー……」
「えっ?」
「マティ、良いな―、二つ名があるのかよ! 滅茶苦茶カッコイイじゃん! 騎士としては強そうに聞こえるし、最高だな! 俺も誰かなんか付けてくれないかなー」
マティルドゥは驚いた。
鬼娘と呼ばれる恋人をルイが喜んでいるからだ。それも自分も呼ばれたいとまで言って居る……
「ララ様は聖女とか、歩く破壊兵器とか呼ばれてるだろう、俺もマティやララ様みたいにカッケー名前で呼ばれてみたいなー」
憧れの人を見るかのようにキラキラとした瞳を向けられて、マティルドゥは頬が熱くなるのが分かった。
ルイは何時もマティルドゥが欲しい言葉をくれる……
凄いとか、カッコイイとか、綺麗だとか、一緒に居て楽しいとか
大好きだとか……
マティルドゥは胸がぎゅうっと締め付けられるような感覚になって、思わずルイに抱き着いた。「大好き……」そう自然と呟いていた。
軽く唇が触れ合ったのを感じた後、ルイがぼそりと呟いた。
これからは ”鬼嫁” って呼ばれるかもなと――
そう呼ばれる日が楽しみだなと思ったマティルドゥだった。