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『おっさん』非限定SS「勤労感謝の日(前半)」

勤労感謝の日にまつわる非限定SSとなります。なお、『トマト畑』でもすでに21日(火)に同じテーマで「暗黒魔王国」を投稿していて、本日の本編更新で「勤労感謝の日(前半)」へと続いていきます。

それはともかく、時系列としては……そろそろ新しいキャラを登場させたくてうずうずしているのですが、本編よりも早くやっちゃあかんだろということで、まだ第二章「渦中の街 イナカーン」内に当たります。第一章をお読みでない方はご注意くださいませ。


―――――


「おーじ様、おはようございます」

 とん、とん、というノックの音と共に――

 そんな猫撫で声が扉超しに聞こえてきた。法国の第七聖女ティナ・セプタオラクルだ。

 どうやら朝早くからリンム・ゼロガードの家に甲斐甲斐しく通ってきたらしい。まさか今日も痴女みたいな格好ではあるまいなと、リンムは最近、ティナの様々な凶行のおかげで獲得できたスキル『心眼』でもって外の気配を探ってみた……

「うむ。どうやら……いつもみたいな真っ裸ではなさそうだ」
「おじ様?」
「あ、ああ……おはよう、ティナ。すぐに開けるよ」

 玄関先には冒険者風の格好をしたティナが立っていた。

 いかにもまともなものを身に着けていたので、リンムも思わず目を瞬いた。何だかとても新鮮だ。

 とはいえ、リンムはすぐにきょろきょろとあたりを見回した。どうやらいざというときのお守《も》り、もといツッコミ役の神聖騎士団長スーシー・フォーサイトは付いてきていないらしい……

 また撒《ま》いたのかと、リンムも「やれやれ」と額に片手を当てたものの、

「スーシーならば、本日はお休みですよ」
「休み?」
「はい。だって、今日は勤労感謝の日ですもの」

 リンムは「そういえば……」と相槌を打った。

 その祝日は帝国から継がれたものだ。もともと王国も、法国も、公国も、帝国から独立したので、文化や慣習などは通じるものが多い。

 だから、この日は王都や領都の騎士、文官や商売人たちが休みを取って、王侯貴族から謝恩会という名の社交界に招かれることになっている。

 ただ、王国の辺境こと、このイナカーンの街では社交界とは無縁の農民ばかりとあって、そんな祝日であっても皆が何かしら働いている。そもそも、勤務を労わるという意味では、先日街を挙げて収穫祭を催したばかりだ。

 実際に、リンムも日課の薬草採取などにこれから出掛ける予定でいた。

「一応確認させていただきますが……やはり、おじ様は今日も働くわけですね?」
「もちろんだ。働かざる者食うべからずだからな」

 そう言いながら、リンムはテーブルの上に簡単な朝食を置いて、ティナを招き入れた。

 ティナは「いただきまーす」と、女神クリーンに祈りを捧げてから、山菜中心のサラダからぱくついた。最早、通い妻だ――いや、どちらかと言うと、リンムの作る食事が目当てなので、ある意味では食堂の常連みたいなものか。

 とはいえ、ティナはやや不満顔だ。もちろん、食事が口に合わないというわけではなく、今日ぐらいまったりとリンムと一緒に一日中、家でゆっくり出来るかもと期待していたのだ。

 ただ、ティナもそれは無理だと分かっていたのだろう。リンムが燻製肉をかじりながら尋ねる。

「何なら……ティナも一緒に森に来るか?」
「もちろんですわ。その為に冒険者風の格好をしてきたわけですし」

 ティナはそう言って胸を張った。

 実際に、昨日のうちにスーシーから聞いていたのだ。イナカーンの人々は勤労感謝の日も休まないものよ、と。

 そのスーシーはというと、昨日の昼のうちに領都に馬で向かっている。イナカーン地方の領主の謝恩会に招かれたからだ。つまり、今日はティナにとって邪魔する者のいない――まさに謝肉祭《・・・》みたいなものだ。

 計画はこうだ。まずリンムと一緒に『初心者の森』に出掛ける。そこで簡単な昼食、もとい携帯食をとるはずだから、その際に飲み物にこっそりと怪しげなポーションを入れるか、もしくはティナ特製の呪術《・・》こと『意識朦朧』を掛けておく。

「ふふふ。完璧ですわ。そのあとはおじ様を家に連れ帰って、手取り、足取り、あんなこと、こんなこと――」
「どうした、ティナ? ぶつぶつと独り言をいって?」
「いえ。何でもありませんわ」
「そ、そうか」
「さあ、おじ様。片付けを手伝いますので、早速、森に入りましょう」

 というわけで、リンムとティナは『初心者の森』の入口広場までやって来ていた。

 傍目から見れば、年の差こそあれど、前衛と後衛のいかにも仲睦まじい夫婦冒険者である。今日は他の街からやって来た駆け出し冒険者たちも、勤労感謝の日とあって朝から飲んでいる者が多く、人気《ひとけ》が少ないことからちょっとしたデートスポットみたいになっている……

 ……
 …………
 ……………………

 もっとも、そんな二人の後を無言で尾《つ》けている者がいた――元Aランク冒険者のオーラ・コンナーだ。実は、数日前に冒険者ギルドを通じてスーシーから正式に依頼を受けていたのだ。

「オーラ殿……領主様の謝恩祭を欠席するというのは本当ですか?」
「耳が早いな。その通りだよ」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も、王族に傅《かしず》いているお前さんらとは違って、水郷長としてそんなものに出席しちまったら、領主の派閥に入ったとみなされかねん。あの阿呆領主の下に付くのは御免なんでね」
「なるほど」

 というわけで、オーラは冒険者ギルドに連れて来られて、スーシーから説明を受けた。

「ティナのことですから、私がいなくなったとたんに羽を伸ばして、義父《とう》さんを襲うかもしれません」
「ふん。別にいいじゃねえか。二人とも、もういい大人だろ?」
「義父さんが認めているなら問題ありません。ただ、ティナの場合、義父さんの隙を突いて、怪しげな薬を飲ませたり、呪術を掛けたりしかねません」
「…………」
「だから、ティナのことを監視してほしいのです」
「なぜ……俺なんだ?」
「だって、義父さんやティナに気づかれずに尾行出来る冒険者なんて、この街に他にいますか?」

 というわけで、ぐうの音も出なかったオーラは、有無を言わさずに受付嬢のパイ・トレランスから受領証を渡されて、またギルマスのウーゴ・フィフライアーから「さすがに神聖騎士団長の依頼《クエスト》は断れません」と押し切られて、事ここに至ったわけである。

「仕方ねえ……いっちょ、付き合ってやるか」

 オーラはやれやれと肩をすくめたわけだが――リンムがそんなオーラの勤労を感謝するのはもう少し後の話になる。


―――――


明日は『おっさん』の本編の更新がありますので、「勤労感謝の日(後半)」は11月25日(土)の昼前後――『トマト畑』の更新と同じ頃を予定しています。本編は予約投稿が出来るのですが、近況ノートはそういった機能がないんですよね。もし二度寝していて、投稿が遅れたらごめんなさい……

2件のコメント

  • 心眼の習得理由がなんとも剣士らしくないと言いますか、『おっさん』らしいと言いますか。
    あいかわらずティナは便利ですね。
    本編がすごい強者なんで落差がアレですが……。
  • お読みくださり、ありがとうございます!

    ティナの聖女らしい清らかなエピソードを捻り出そうとしましたが……なかなか難しかったです(;ω;)

    クリスマスイブこそは……(今話はまだ後半もありますが)
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