※以下は、書き進めていた7/9投稿予定分ですが、あまりにも悪ふざけが過ぎて読者の皆様に叱られそうだったので没にしました。ただ、無かったことにするのも勿体無いのでこちらに載せてみます。ノークレームノーリターンでお願いします。
第338話 レプミアの大ボス
王太子に連れてこられたのは、玉座のある謁見の間ではなく、なんと王様の私室だった。
おいおい、王様のプライベート空間だぞここ。
流石に戸惑う僕をよそに、王太子が軽くドアをノックし、返事を待たずに入っていく。
「父上。ヘッセリンク伯を連れて参りまし……」
なぜかそこで言葉に詰まる王太子。
なんだ?
続いて入室して部屋の奥に視線をやると、そこにはとんでもないものが立っていた。
「ご苦労だったなリオーネ。ヘッセリンク伯も、疲れているところすまぬな。さ、こちらへ」
立っていたのはもちろん国王陛下だ。
それ以外にはありえないのだからそれは構わないんだけど。
問題はそこじゃない。
「いや、父上。これはどのような趣向なのでしょうか。そのお姿は一体?」
「ふっ。ヘッセリンク伯はあのカナリア公の薫陶を受けた剛の者。ならば、その作法に則ろうと考えたまでだ」
カナリア公の作法に則ったという国王陛下は、なんと上半身裸、つまりは上裸状態で僕達を待ち受けていたのだ。
ニヒルな表情で笑って見せる王様。
いやなにをやってるんだ最高権力者!
裸の王様、じゃなくて半裸の王様だよ!?
「ヘッセリンク伯?」
王太子が戸惑い気味に呼びかけてきたので、首を振る。
「いえ。確かに私はカナリア公にお世話になっておりますし、見方によってはカナリア派と言われても仕方ないのも事実ですが……」
「そうであろう? 余はこの国の支配者ではあるが、真摯に仕えてくれる貴族達に寄り添うことを忘れないよう、常々言い聞かせておる。今回はヘッセリンク伯を不当に疑ってしまったようだからな。謝罪も兼ねて酒でもと思ったのだが、折角だから其方の慣れた作法に合わせたのだ」
不当に疑った?
ああ、昨日の飲み会で何か企んでたんじゃないかってやつ?
いや、それはいいんだけど作法云々は勘違いだよとどう伝えればいいのか。
「ヘッセリンク伯、構いません。陛下に正直に回答を。私が許可します」
王太子から助け舟が出された。
本当に助けてくださいよ?
ハシゴ外しは笑えませんからね?
視線を交わすと、王太子が深く頷いた。
よし、いくぞ。
「申し上げます。私、レックス・ヘッセリンクは、酒を嗜む際に、自ら上裸になることはございません」
意を決してそう告げると、柔和な表情が凍りつき、ワナワナと震え出す王様。
これはあれだな。
寒くて震えてるんじゃなくて、怒りで震えてるやつだ。
王様はその怒りを必死に押さえつけ、奥歯を噛み締めながら言葉を絞り出す。
「……続けろ」
「その特徴はカナリア軍と呼ばれた先達達のものです。私のような若造は、飲むたびに脱いだりはいたしません」
僕の告白を聞いた王様は、一瞬スンと無表情になったかと思うと、そこから一気に顔を紅潮させる。
「カ」
「カ?」
「カナリア公を呼べ!! あのクソジジイめ! 余を謀りおったな!! なにが『ヘッセリンク伯はカナリア軍の伝統を継いでいる』だ!!」
犯人はカナリア公!
あの爺さん、王様相手になにしてるの!?
怖いものなしかよ!
「ああ、カナリア公の悪ふざけですか。いや、ほっとしました。まさか、陛下まで酒席時ではお召し物を脱がれる方なのかと」
「そんなわけがあるか! かかなくていい恥をかかせおって! 笑うなリオーネ!」
王太子は、驚きが去った後半裸で葡萄酒の瓶を持つというシュール過ぎる父親の姿に耐えられなくなったのか笑いを堪えて顔歪めていたが、王様の怒声でついに決壊する。
「いや、も、申し訳ありません。しかし、これは、くっ、あは、あははは!!」
「ええい! 笑うではないわ馬鹿息子め! 誰か! 葡萄酒ではなく火酒を持て! 飲まずにいられるか!!」