丸山 令様の「そのシスターは、丘の上の教会にいる」を読ませていただきました。
一応全てを読ませていただいたのですが、読み飛ばし、解釈ミスなどがありましたらすみません。また、審査員でも作家でもない素人の意見ですので、「ふーん」程度に聞いてもらえればと思います。
あらすじを説明すると、
とある女性が目覚めると部屋は血だらけ、手にはナイフ。でも遺体は無いし、自分もケガしてない。まさか、どこかで誰かを……?
時を同じくして、巷では女性を狙った連続殺人事件が発生していた。刑事たちは丘の上の教会にいる美人のシスターと面会する。シスターは何者なのか?犯人は?
という感じのミステリです。
率直な感想としては1万字以下という字数でよくまとまっていると思います。犯人を推理させるためのブラフ(ひっかけ)も用意されていて、中盤ぐらいまでは誰が犯人かわからないまま話が進みます。ちゃんとミステリをしてて面白かったです。終わり方についても許せるかと聞かれたら「許せます」。
さて、ここからはネタバレを含むお話になりますので、未読の方はできれば作品を読んでから続きを読んでいただきたいと思います。
「そのシスターは、丘の上の教会にいる」
https://kakuyomu.jp/works/16817330669499780945ではいくつか気になった点を書きます。
・環境描写について
冒頭最初のシーンにおいて、彼女は部屋のどこで、どんな姿勢で眠っていたのか。
ベッドの様子。血痕の状態(濡れているか乾いているか。色など)。窓は開いていたのか、ドアは開いていたのか。そのほかの家具の状態などなど。
ミステリにおいて、事件や不思議なことが起きた「場所」の情報がトリックのカギになっていたりすることも多々あります。仮にそこにギミックが無かったとしても詳しく描写することで「何かギミックがあるのか?」と読者に深読みさせることができるのではないでしょうか。
・人物描写について
作中に刑事が登場しますが、刑事という職業をかっこよく見せるコツは「洞察力」だと思います。例えば、人は嘘ついたり動揺しているときは発汗や目線が泳ぐなどのしぐさで現れます。話した相手の目線、息遣い、手の動き、挙動、発汗、そして発言内容から相手の真意を見抜く。シスターに対して聞き込みをした際も、そういう観察している描写を足すと、プロっぽさを出せるのではないでしょうか。
また、応用として「明らかに何か知っていそうなのに、一切の動揺が見受けられない」とすると、得体の知れない不気味さと強キャラ感を出せます。
強面の刑事が質問しても一切動揺しないシスターがいたらなんだか凄みを感じませんか?
対比として直前に別の人に聞き込みをして、その人物がビビり散らかしてると、なお効果的に伝わると思います。
・キャラについて
シスターについて読んでいて迷ったのは、彼女は安楽椅子探偵のように話を聞いただけですべてを理解してしまうたぐいの「探偵」なのか、モリアーティ教授のように犯罪を裏からコントロールする「黒幕」なのかという点です。
おそらく、作者様的には「探偵」を意識されているのではないかと思いますが、それにしては解決策がバッドエンドです。不思議なキャラで、これはこれでよいと思います。ただそうすると一つ問題があります。それは探偵の不在です。
推理小説で一番盛り上がり、読者が期待するシーンは探偵が推理を披露し、犯人を追い詰める瞬間だと個人的には思っています。そこに至るまでの膨大なページは最高のフィナーレを迎えるための土台でしかないといっても過言ではないでしょう。
序盤に築いた確信が、すべて用意された仕掛けだったと気づいた時の「裏切られた感」が気持ちがいいんですよね。
その観点からみると、終盤のヴィクトー係長とシスターの会話は謎解きにはあまりなっておらず、会話文が淡々と続く感じがしてしまいます。
そして最後にヴィクトー係長が自分の考えを披露して終わり。となっているのが「盛り上がらない」原因かなと思いました。
まあ、そのような物語があっても良いと個人的には思いますが、盛り上げたいというのであれば探偵を誰にするかを意識されると良いかもしれません。そして読者をどんどん裏切りましょう。
という感じで色々書いてしまいました。結果としてネタバレを含んでしまったことは申し訳ありません。
私はミステリは好きですが書けない人なので丸山さんは書けてて凄いと思いました。
面白かったです。