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近況ノート100回記念! 読み切りファンタジー!



結構前に、思いつきで書いた第1話だけの物語。
本当は第2話まで書いてあるけど、中途半端。

せっかく書いたから読んで欲しくて、ここに第1話だけ公開することにしました。

近況ノート100回目記念だからね。
何しても許されるよね。うふふ。


タイトル
『のじゃロリ魔王は今日も悪事を働く』

第1話
『妾は偉いのじゃ。敬え』



 牧村陽一は今、猛烈に困っている。

 暑いので窓を開けていたのだが、そこから何かが入って来てしまった。

 それは2頭身の小さな女の子で、長いウェーブの黒髪に、頭からは2本の角が生え、指のない短い手には赤いクリスタルが嵌め込まれた杖が不思議なチカラで握られている。

 肌は褐色で健康的、紫色のドレスは露出多めでぺったんこな胸を隠し、短い足の先端にはおそらく靴であろう何かを履いている。

(いや、靴下かなアレ)

「妾はお腹がペコペコなのじゃ。何やら良い香りがするのう。食べさせろ」

(くっ。スパイスからカレーなんて作るんじゃなかった。デキる男の気持ちが知りたくて、つい専門店でターメリックやらコリアンダーやら澄まし顔で買っちまったんだ)

 ショッピング中の牧村は確かにデキる男だった。それが今や完全に狼狽えてしまっている。

(こんなファンタジーなのじゃロリが現れるなんて想定外だぜ)

 だが牧村は負けない。長年社畜をやっている牧村は、やっともらえた休みを謳歌していた。こんなのじゃロリに負けてたまるかという強い想いがあった。

 幸い明日の分も作ったので量は足りている。

(ここはひとつ、このファンタジーのじゃロリに俺の渾身のカレーを食べさせてやろうじゃないか)

「おい。何とか言え」
「あ、はい。じゃあそこのテーブルに座って下さい」

 のじゃロリはテーブルの上に座った。

「違うそうじゃない。そこはご飯置くところでしょ? そこにおしり付いたらバッチいでしょ?」
「なんじゃ貴様が座れと言ったのに。妾は悲しい気持ちになったのじゃ」

(くっ。こいつ、とんでもなく眉を下げて今にも泣き出しそうな顔をしやがる。のじゃロリでもレディ。ここは泣かすわけにはいかない)

「あ、はいはい、俺の言い方が悪かったね。テーブルでご飯が食べられるように、テーブルに向かってラグに座ってね」
「なんじゃ、それならそうと先に言わんか。わかりづらい」

 のじゃロリはよちよちとテーブルからずり落ち、ラグにぺちゃんこ座りした。

(このメスガキ。途端に元気になりやがった。ひっぱたいてやろうか)

 牧村はちょこんと行儀良く座るのじゃロリを確認し、キッチンでカレーをよそった。今日のために買った2枚セットの横長の皿も、硬めのライスも、準備は万端だ。

「ほい。特別製カレーだ」
「ほう。かれーというのか。どこが特別なのじゃ?」
「材料が特別だ。店で売ってるカレーとは訳が違う」
「ほうほう。良い香りじゃな。妾は楽しみじゃ」

 のじゃロリは満面の笑みで感情を声に出す。

(か、可愛いじゃねーか)

 2人はカレーを味わった。

「うまい! うまいぞ! えーと、誰じゃったかな?」
「牧村陽一だ」
「マキムラ・ヨーイチか。妾はレヴィエント・マグ・リエスタじゃ。貴様を妾の護衛騎士とする」

 牧村はカレーを食べながら、この子がいったいどこから来たのか、ただならぬ存在であることは確かだが、その目的について聞き出す。

「レヴィエントはどこから来たの?」
「む。無礼な。魔王様と呼ばんか」
「ハイハイ、魔王様はどちらからおいでですか?」

 すると、魔王は満足そうにこう答える。

「妾はリリエナーラ大陸から……」

 魔王と呼ばれて喜んでいた様子だったレヴィエントは、直後、さみしそうな目で俯いた。

「妾は……そこから追い出されて来たのじゃ」

 口がへの字になり、大きな目からは大粒の涙がポロリ、またポロリと溢れ、みるみる内に泣き顔になってカレーを頬張る。

「うっ、うぐっ、もぐもぐ、ふぐっ、みんなひどいのじゃ。なにも追放しなくても……うっ、うぅ、もぐもぐ」
「食うか泣くかどっちかにしろ。何したんだいったい」
「妾は……ちょっと悪事に手を染めただけじゃ」

 牧村は魔王と呼ばれていることから、何かとんでもない事をしたのだと察した。

(この様子じゃ、国を滅ぼしたとか、王族を抹殺したとか、そんな感じか?)

「隣の国の国王に……」

(国王に?)

「う〇ちを投げつけた」

 レヴィエントは『悪いこと』のうち、少しだけ悪い『食事時に汚い話をする』を炸裂させた。

 彼女は満足げに、にんまりと悪い顔になる。

「クックック」

(このメスガキ! カレー食ってんだぞ!)

「我ながらとんでもない悪事を働いたものじゃ。もぐもぐ」
「ん? それだけ?」
「それだけとは何じゃ。『悪いこと』のひとつ『人に物を投げる』をやってしまったのじゃぞ? もう国中大騒ぎじゃ」

 牧村は何かと察しが良い方だ。彼は『悪いこと』が他にどんなものなのか尋ねた。

「そうじゃな。三大悪事は『暴力』『窃盗』『嘘』じゃ。妾もそこまでの悪党ではない。もしそんな事をしたら追放では済まされんな」
「殺人は?」
「サツジンとは何じゃ?」
「人を殺すこと。首を絞めたり刃物で刺したり」
「ななな何と邪悪なっ! ち、血が出てしまうではないか! そんな事、1000年前に封印された邪神ですらやらなかったぞ!」

 牧村は「ふーん」と言って、ガタガタ震えながらカレーをもぐもぐする幼女を、こいつは悪い奴じゃなさそうだと結論付けた。

 レヴィエントは『やさしい世界』からやってきた恐怖の魔王。その所業は木の影から飛び出して人を驚かせたり、椅子にハチミツを塗ってベタベタにしたり。

 現代日本ではちょっとした悪ふざけだが、彼女の世界では極悪とされる犯罪だった。

 これは、そんな魔王が牧村と一緒に現代日本で生活する物語。果たして、彼女は『悪い人』がいっぱいいるこの世界で、無事に生きていけるのか。

 牧村は、彼女を心配しながら食器を洗い、お風呂を沸かすのだった。



おしまい



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