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『ささ』―主人公について

 自分の作品の登場人物たちは、私にとって特別な存在です。現実世界の友人達とは異なりますが、彼らは小説を書いている間、私の中で現実と同じくらい、この上なく”生きて”います。書いている時、私は彼らに寄り添い、同じ眼を持ち、同じ時間を生きます。それ程までに一体化し、心を溶け合わせた存在だから、善良な子も、邪悪な子も、社交的な子も、はにかみ屋の子も、大人も、子供も、愛おしくて仕方ありません。

 特に主人公は、一緒に過ごした時間が長いだけに、深い思い入れがあります。私の書く小説は全て、女性が主人公なのですが、書いている間は授業を受けてても仕事をしてても、いつも彼女達のことを考えています。今なにをしているかな、この後一緒に何をしようかなって。まるで、恋みたいですね。

 歴史小説『ささ』の主人公、ささは、私がとても尊敬している、憧れの女性です。一種の理想と言ってもいいかもしれません。
 ささ、という名前をどうやって思いついたのかは、もう覚えていないのですが、自然の力を浴びてぐんぐん伸びてゆく植物の健やかな生命力や、どんなに力を加えられても折れない竹のしなやかな強さを連想させて、彼女にぴったりな名前をつけてあげられたと、誇らしく思います。
 ささは、とても若く、肉体的にも社会的にも無力な女性です。時代が戦国時代なだけあり、15歳にして職に就き、18歳で”結婚”をします。夫の織田信長は、他者の上に立つことに慣れている恐ろしい権力者であり、ささの他に妻を持ち、ささより30歳も年上です(年齢差だけは流石にやりすぎたかもしれないと思って、他の登場人物に存分にツッコミを入れて貰っています)。早熟にならざるをえなかった彼女の人生は、ある面から見ると、とても過酷なものだったかもしれません。

 けれど、魂の面から見ると、ささは誰より強いのです。
 他者と向き合う時、ささは必ずその人の目を真っ直ぐに見つめます。その人の心を見抜き、嘘のない心で対話を試みます。彼女と接した人たちは皆、彼女の大きな目に秘められた力に圧倒され、彼女の影響を受けます。
 安土という町に生まれ育ち、側室となってからは城の外にすら出ることのほとんど叶わなかったささでしたが、肉体は縛られていても彼女の魂は完全に自由です。窓から空を見上げるだけで、風を肌に感じるだけで、彼女はその自由を謳歌することができる、素晴らしい能力を持っているのです。
 ささの持つ最も強い力とは、愛です。彼女が世界へ、他者へ、そして彼女の唯一の夫へ向けた愛は、ひたむきで純粋で熱のこもったものでした。彼女の魂が愛で溢れているからこそ、ささは女性としての美しさを見事に花開かせ、豊かで幸せな経験をいくつもし、彼女に出会った全ての人の心に、自分が確かに生きた証を残したのです。

 この小説を書いている間、私は寝ても覚めてもささのことを考えていました。最後に彼女と”お別れ”しなければならないのが分かっていたから、いつもより一層、この主人公を愛しく思いました。授業中にノートの端に「ささ」「安土」と何度も落書きしたり、彼女の似顔絵を描いたことを覚えています。穏やかで優しい雰囲気のささと一緒にいるととても癒されましたし、また鈍感なのに一途で健気な彼女がいじらしくて可愛くてたまらず、いつまでも彼女を見ていたいなあと思ったものでした。

 ささの生き様は私に、静けさの中に秘めた強さを教えてくれました。
 たとえ肉体が束縛を受け、無力であっても、魂はどこまでも強くなれることを教えてくれました。
 自然を愛し、周りの人を愛し、命をかけて恋をする人生の価値を教えてくれました。
 ささのようになりたいと、今もどこかで思っています。
 ささが私の中に来てくれたことに、心から感謝しています。
 私の憧れの女性、理想の女性に、皆さんも小説を読むことで出会ってくれたら、とても嬉しいです。
 
 

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