『有翼の民』は、実はとあるコンテストへの応募作品として書いたものです。そして、毎年応募していたそのコンテストで入選を果たすことのできた、私の唯一の小説でもあります。
字数制限のある応募作品の良い所は、ストーリーの起承転結をテンポよく整えられることだと思います。私の場合、特に締め切りや字数制限がなく趣味で執筆していることが多く、そうすると幾らでも長くなってしまうので、たまにコンテストに応募することは、ストーリーの配分を考え、余分な文章を削り、小説の全体を整える、とてもいい練習になっています。
書いている時から、『有翼の民』は、そうしたバランスやテンポが今までで一番よくできていると確信していました。主人公の少女が絵描きであることから文章に詩的な修飾語を散りばめつつ、冗長にならないように、会話文だけで構成されるパートを設けたり、生々しく残酷な場面をどのくらいの分量で収めるか冷静に計算したりといった作業が、自分でも驚くほどスムーズに進みました。
この小説は、それまでコンテストに応募していたものとは毛色が異なる、かなりダークな風味の強い物語です。それでも…それだからこそ、書き上げた時、物語の紡ぎ手の末端に連なる1人として、私は一つステップアップできたのかなと思います。
キーパーソンの神山薙《かみやまなぎ》は、大正時代の文学青年のイメージです。打ち明けてしまうと、大好きな漫画家である波津彬子さんの『雨柳堂夢咄』シリーズの主人公、蓮のイメージも少し入っています。
「肩甲骨は翼のなごり」であるという伝説を初めて私が知ったのは、デイヴィッド・アーモンドによる同名のタイトルの小説ですが、この言葉はどの程度認知されているのでしょうか。とても好きなモチーフなので、機会があったらまた使いたいと思っています。