「綿棒、綿棒はいかがですか?」
真冬の札幌市内で、三冠馬オルフェーヴルが綿棒を売っている。
「耳ほじり、鼻ほじり、お尻ほじりに最適の綿棒はいかがですか? 安くておいしい綿棒を買ってください」
オルフェーヴルは通行人たちに呼びかけるが、観光客も地元民も、この珍妙三冠馬の突然ガバチョの売り込みに困惑する。誰も彼が売る綿棒を買ってくれない。
「どうしよう…。種牡馬としてのお給料だけではお中元やお歳暮の予算を工面出来ないから、副業として綿棒売りを始めたけど、誰も買ってくれない…」
オルフェーヴルは悔し涙を流す。
「いいよな、カナロア君は。種牡馬としてのお給料が十分だし」
彼と同期のロードカナロアは、種牡馬としてのギャラが彼より高い。しかし、オルフェーヴル自身は三冠馬という肩書きがありながらも、カナロアよりギャラが安かった。
「俺もカナロア君みたいな高給取りになりたいな。そうすれば、ケンちゃんにお歳暮として鮭児を送れるのに」
オルフェーヴルはかつての相棒を思い出して、涙に暮れる。
「そうだ、この綿棒を使おう」
オルフェーヴルは綿棒で耳掃除をした。すると、青々とした牧草地の幻が現れた。
「わぁ、おいしそうな青草!」
しかし、幻はすぐに消えてしまった。
「では、もう一度」
オルフェーヴルはもう一度綿棒で耳掃除をした。すると、かわいい牝馬が現れて、彼に向かってウインクする。
「わぁ、かわい子ちゃん!」
しかし、牝馬の幻はすぐに消えてしまった。
「ええい、もう一度!」
オルフェーヴルはさらに綿棒で耳掃除をした。すると、かつての相棒ケンちゃんが現れて、オルフェーヴルの首元を撫でた。
「ケンちゃん! 会いたかったよ!」
オルフェーヴルはかつての相棒に前脚で触れた。すると、相棒ケンちゃんの幻は消えてしまった。
オルフェーヴルはワープ穴を使って社台スタリオンステーションに戻り、おとなしく自分の馬房で眠りましたとさ。めでたしめでたし。