※ファンタジー小説『空の勇者と祈りの姫』(著:卯月)の感想。
ネタバレしてます警告を感想の冒頭に置いてましたが、結局書くに当たって微妙に配慮してしまうので今回から外しました。自由に書くのって難しいですね。
意地の悪い言い方をするならば、超丁寧なNAISEI、俺TUEEEEといったところでしょうか。
主人公は漫画「シドニアの騎士」を思わせるSFじみた世界(現実世界の延長)にいながら、最終決戦の最中にファンタジーの世界に降り立ってしまう。そこで破滅を目前にした国の姫に助けを求められ、力を貸すことに――というストーリー。
なんだか毎回言ってる気がしますが、この手の小説にしては珍しく三人称視点です。主人公には人体改造にすら手を出さなければいけない絶望的な戦争を生きてきたというバックボーンがあり、ある意味では非人間的で機械的、しかし味方に対しては善良であり敵に対しては非情であるところはある意味人間的。
超人的な主人公の内面が変化していくという要素もあり、三人称視点は正解だったのではないかという印象です。
さて、NAISEIと前述しましたが、丁寧さが群を抜いている。この手の作品はある程度流れが決まっていて、序盤で現代知識を元にした兵器や戦法で強大な敵の鼻を明かすような展開がありますが、そこまでに36話費やしてるといえば丁寧さがよくわかるのでは。
かといって冗長なわけではなく、まず自分の立場と地位の確立、重鎮との折衝、というところから入るのが面白い。そうそう、社会ってそういうもんだよね、と膝を打つ思いでした。突然現れた主人公を、周囲がいきなり持て囃したりせず、異物として見ているリアリティもいい。そしてその異物を受け入れざるをえないという展開で事態の深刻さを演出するのも上手い。
特に主人公は相談役というか、顧問というか、そういう立場だからぶっ飛んだ提案を即通せるわけもなく、根回しとプレゼンで結果を出して人の心を掴まなければならない。現代知識披露、なにそれすごいそれでいこう、みたいにならないのは素晴らしい。
順風満帆すぎるきらいはあるものの、序盤から中盤にかけては計算されつくした安定感があり、目が離せませんでした。
と、ここまでべた褒めですが、最初の合戦からしばらくしたところでその丁寧さに陰りが出てきた印象。
顕著なのはキャラクターで、なんだか言葉を話す舞台装置のように無味乾燥なやり取りが増えた気がします。作中で主人公は徐々に人間らしくなっていて、口調も柔らかくなっていくのですが、むしろ逆に人間味が薄れていくように錯覚しました。
あと過去にも地球人が訪れたのでは、という謎を随所に書きつつも、地球の植物や物質の名前がぽんぽん出てくるとさすがに白けるところは否めない。
主人公最強物は好みではありますが、40万文字ほども書かれて主人公が本気で苦悩したり怒ったりしたのが恋愛絡みくらいというのはいくらなんでも、というところも。
そういうところもあり、マイページから更新を確認したときに読むのがやや億劫になってしまったので、申し訳なく思いつつもフォローを外しました。
ただ、最初の合戦で秘密兵器が炸裂するカタルシス、またあまりの威力に味方までドン引きするあたりまでは本当に面白かった。その後についてもつまらなくなったわけではなく、単に私の趣味に合わなくなっただけというところが大きいような気もしています。
感想を書いている時点で★11ですが、この数字の後ろに0が一個付いてもまったくおかしくないと思います。私の数少ないフォロワーさんに届けこの小説の面白さ。超オススメ。