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『異界の君と現世の僕』感想

※ファンタジー小説『異界の君と現世の僕』(著:なはこたろう)の感想。
 ネタバレありなので、読んでいない人は絶対に見ないこと。














 おすすめレビュー書くの断念しました。
 ネガティブな理由があるわけではなく、単に的確かつ邪魔にならないレビューを書ける自信がまったくないからです。非常に申し訳ない。

 主人公は、幼少から異常に鍛えられていたという境遇の日本人の男子高校生。異世界に迷い込み、ガイド役となる毛玉に出会うところから物語が始まります。
 これだけ見ればありきたり、むしろ陳腐化しきった導入です。正直、先を読むのを迷ったこともありました。
 ただ、五話まで読んだところで、あれ、これはよくあるアレらとは違うぞ、という空気を感じます。

 この、『凡百のものとは違う』雰囲気の出し方がうまい。
 あまりにありふれすぎて、どうあがいても陳腐な雰囲気を払拭できない異世界迷い込み系において、もはや独自要素のアピール程度では人の気は引けません。
 最後に物を言うのは、やはり文章力、そして演出の巧みさでしょう(個人の印象)。その演出において、この作品は郡を抜いている。

 はっきり言って、異世界ファンタジーなのにクトゥルフじみた外界からの侵略者を絡めました、というのは、斬新ではありません。なんなら小説家になろうで見たことあります。
 しかしその描写の仕方がすごい。精神的なダメージすら感じました。良い意味で。
 戦闘描写も巧みで、スピード感がありつつ、一つ一つの言葉選びが卓越しています。嫉妬すら覚えました。
 そして物語の四分の一を占める回想。ともすれば蛇足になりがちな、過去回想によるそれまでの物語の答え合わせも、決して冗長には感じませんでした。

 欠点。それを挙げるとするならば、異世界迷い込みファンタジーという題材そのものでしょうか。このジャンルはもはや子供向けといっても過言ではないので、ハイファンタジーの方が作者さんの筆力を発揮できたような気がします。
 あと、タイトル。最後まで読めば感慨深いものではありますが、人を引き込む看板として掲げるには弱い。加えてキャッチコピーもあと一つ。

 一度読ませるところまで行けば、あとは強いと思います。ただ縁もゆかりもない他人に読ませる、そのハードルを超える工夫があれば、といった感じでしょうか。

 文字数からして文庫本二冊くらい、その配分を見てもかなり本気で取り組まれたことがわかります。丁寧で、力強く、そして巧みな物語。
 三人称視点かつコシのある文章なので、やや覚悟を決めて読む必要はありますが、面白いです。オススメ。

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