※現代ドラマ小説『君が目覚めるその時に』(著:トウリン)の感想。
既に削除されている小説なので、カクヨムで読むことはできません。
こういう価値観の交流みたいな話は大好物です。
堅物の医師の瀧が、心臓の疾患で死を間近にする少女キラと出会い、二人の価値観と感情が揺れ動く――という物語。
登場人物のキラは自分が死ぬことによる周囲への影響というところも考えられていて、幼く見えて大人びた少女、という設定に違わない思慮ぶかさがあります。それでいて子供らしいわがままだったり反発心だったりもあってすごく魅力的です。
瀧は尊敬と同じくらいの畏怖を集める冷血医師で、おそらくは持って生まれた性格と高い能力から価値観が凝り固まっている。医療従事者として人の命を救うことを追求するリアリストですが、限られた時間を生きる「患者としてのリアル」とのギャップを感じて揺れていく姿に感じ入りました。
ただテーマが少し散らかってそれぞれを掘り下げ切れていない印象を受けました。生と死、医者の葛藤、医者と患者の恋、歳の差恋愛、どれもそれだけでいくつも小説を書けそうですしね。
あと今時の医者ならQOLも当然考えているのでは、という違和感も少し。エピローグが多少駆け足に見えたのも惜しい。
ただそれもあえて指摘をするならという程度で、総じて丁寧で暖かい物語だと思いました。作品全体で悲愴感が薄めで、もしかしたら賛否両論かもしれませんが、私としてはこの雰囲気が大好きです。
自分の生と死の意味と理由を考え直したくなる、そんな物語でした。おすすめ。