第263話までで、カルナリアがバージョンアップしました。
『王の冠』装着により能力が飛躍的に伸びた、その結果の「神眼」。国王、上に立つ者が持つものとしてはチートすぎます。
奴隷がこの能力を持っていた場合は、「上に行きそうな主人を見つける」「奴隷の話をちゃんと聞いてくれる相手を見つけて的確なアドバイスで信用させ自分を引き取らせる」などの、まず「いい相手と巡りあう」幸運が必要なのでこれほどの能力あってもハードル高し。宝の持ち腐れ、生意気だと殺されて終わってしまう可能性もありました。
作劇的には、最初期から設定していたものではありました。話の展開上、小娘にすぎないカルナリアが実績ある偉丈夫たるガルディスに立ち向かうためには、本人の武力、知力よりもこういう「人を見抜く目」があるといいな、と。
そのアイデア元は後漢創始者、リアルなろう主人公こと「光武帝」劉秀……の部下、のちに「光武二十八将」と言われる優れた臣下たちその筆頭たる「鄧禹(とう・う)」です。劉秀が若い頃当時の都長安に留学していた、そこで出会った七つ下の少年。のちに劉秀が反乱軍の一員として行動し始めると合流してきて腹心となります。でもこの鄧禹、きわだって武勇に優れていたわけでもなければ軍才も危うい(一軍を率いて大敗したことあり)、宰相に任命されたけれど政治手腕が抜群だったということもない……ではなぜ筆頭とされたのか。答えは「人材推挙」「人を見る目」が抜群だったからなんですね。あちこちで出会った人を次々と劉秀に推挙。しかもそれがよく当たる。二十八将のうち少なくとも五人はこの鄧禹が紹介した人材だったりします。若いのにどこでそんな眼力を身につけたのか。天性の才能持ちだったとしか。
カルナリアの能力としてこの「人事の才能」はいいなあと思って、「目」というものにしました。
それによりフィンへの好奇心を抱き、あるいは路上で出会う人に世間知らずながらも何とか警戒することもできて、割といいスパイスになったかと自画自賛しています。
そしてまた、見える「色」の分析と対応で彼女の成長もわかるようになっています。最初の頃はとにかく気にしていた「悪い色」も、生死のかかった修羅場に何度も立つうちに、それほど気にしなくなっています。濃厚な殺人の才能があるのに何度も自分を助けてくれたレンカ、逆にそっちの才能はないのに必要だからと身につけた技術でたやすく人を殺すトニアのような人々との出会いもありました。初期に比べると今のカルナリアはかなり清濁あわせ呑めるようになってきていますし……これからは「濁」を否応なしに行わねばならなくなる時もあるでしょう。王になる、上に立つとはそういうものに直面するということでもあるのです。
とはいえ……ニューバージョンの「目」を使う時の妖艶さは、書いているとき勝手に出てきた設定でした。可愛い系のキャラが突然半眼になり妖しく迫ってくるようなのが大好物なので水面下でやりたいと思っていたのでしょう。
映像にするならば、ねっとりした目つきをした全裸のカルナリア(半透明の、精霊みたいな感じ)が見られた人の全身にからみついてゆく絵面になると思います。相手もイメージ世界で裸になりそこに何体もからみつき染みこみ入りこんでいく。色々問題ありすぎです。自分の意志でオンオフできるのが救い。
その「神眼」で見抜いたトニアという超危険人物。サキュバスなら精気を吸うだけですがこちらは相手を言いなりにしてしまうので吸血鬼が近いかも。一晩を共にするどころか手でまさぐられるだけでも虜にされてしまう危うさです。
独特の間延びしたしゃべり方も、普通に話すと相手を変に魅了してしまうからわざとあのような口調にしているという面があります。自分でも自分の声の威力がわかっているので、相手を籠絡したい時には切りかえます。快楽洗脳の天才です。
カルナリアが知る機会はありませんでしたが、湖畔の村でもう少し「あの小屋」の中の様子をのぞき見していたらその一端に触れていたかもしれません。
そして、カルナリアが「目」を持たずに王族の血を引く者だからとただ側に置いていたら、いずれは侵食されていた可能性はきわめて高い。18禁作品まっしぐら。フィンの処置は正解です。この人物、野放しにするのは危険すぎます。
余談。
カルナリアの「神眼」に見られて恐怖するトニアの描写は、ふと映画「シャイニング」の有名なカット、主人公の妻ウェンディ(シェリー・デュヴァル)の、扉を斧でぶち破られた時の恐怖顔が浮かんで、それをイメージしながら書きました。殺人鬼よりも奥さんの顔の方が怖いとすら言われたものすごい表情です。今となっては割と昔の作品となってしまいましたが、映画自体もとても面白いのでおすすめです。双子はほんとトラウマ。なんであんなに恐いんでしょう。
さて、いよいよカルナリアがフィンを「見」て、残された全ての謎を明かされる時が近づいています。全300話、ゴールまであと少し。お楽しみください。