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「ぐうたら剣姫行」239話およびグンダルフォルムあれこれ

第239話「ザグレス」および240話「後始末の準備」において、最強の魔獣グンダルフォルムが退治されました。

ぶっちゃけ、フィンおよび死神の剣でなければどうすることもできない相手でした。
巨大なくせに人間の指先レベルの細かいこともやれる。相手を判別し順番や食い方を考える知能もある。レイマールの攻撃に同じ人間を盾にするあたりは本当にたちが悪い。

襲撃を事前に察知し、砦にいた全員が力を合わせ、ファラとバージルに他の魔導師たち、さらにレイマールとカルナリアも加わって最強騎士のディオンに力を注ぎこみ攻撃させれば、胴体を半分以上切り裂くことはできたでしょうが、その直後に治癒魔法により修復されて、それでおしまい。完全に切断することができても結果は同じです。ギリアが自分の腕にやったように血を介して体をつなぎ、修復してしまいます。
(フィンがなぜ斬れたのかは、カルナリアはまだ知らない仕掛けがもうひとつあります)
そしてこのグンダルフォルムは、豆粒が力を合わせてこういう攻撃をしてくることもあるのかと学習し、次の機会にはさらに狡猾な攻撃の仕方をしてくるでしょう。

この最強の魔獣、グンダルフォルムについて。

基本的には蛇型形状、腕はあるけれども脚はなく長い体をくねらせて進みます。
きわめて強靱な鱗および表皮と強い肉体、限界があるのかどうかわからない成長ぶり、そのくせ細かいこともやれる触手や腕、指を持ち、体が大きくなればなるほど同じだけ大きくなる魔力、そして人間に匹敵する知恵を持っています。
その上でなお、「なろう系」といわれる作品によくあるチート持ち主人公のようなラーニング能力すなわち能力会得と再現能力があるという、本当に厄介すぎる魔獣です。

ただ、240話で死に際して「幼体」をぶちまけたことから、無限の寿命を持つわけではなく死ぬことがあり世代交代が行われる生物であることだけは間違いありません。

幼体は長さ20cmから1mほどの、人の指ぐらいの太さの半透明な蛇状の生き物。かなり硬いですしつかんで振り回して頭叩きつけても簡単には死なない生命力を持っていますが、通常の生き物の範疇内です。人間でも捕らえて殺すことは可能です。
「親」の持っていた能力を受け継ぐことはありません。

幼体期は肉食です。グライルに棲む大抵の魔獣と同じく魔力あるものを狙ってきます。もちろん普通の肉や死骸も食べます。食らったものの能力を学んで、再現してゆきます。ただし実は条件があり、「生きているものを全部食う」のでなければラーニングはできません。肉をひとかじりしただけではその分の栄養を得て体が成長する以外の進歩はありませんしすでに死んでいる肉をいくら食べても同じです。肉という物質だけではなくそこに含まれている生命、感情、魂といったものも摂取している……それどころか本当はそちらの方が主食です。
したがって何かを全部食べられるほどに育つ前なら、「大きめでしぶとい蛇」で、専門の狩人もしくは集団でなら退治することは可能です。捕まえて肉や血、皮などを採取することもできます。

しかし全部食べられるほどに成長してしまうと、ぐんぐん危険な存在になってゆきます。
草食獣を食らいつくすと植物も消化できるようになって体の成長度合いが高まりみるみる巨大になってゆきますし、強敵に角や牙で傷つけられると鱗や頭部にその形状が出現して相手を攻撃するのに使うようになります。電撃、毒、魔法などの攻撃をしてくる生き物を食べるとその能力を宿します。
その意味で、人間は危険な存在です。食われると、身につけていた能力の大半を再現されるようになるからです。道具を使う、作戦を立てる、あきらめないといった人間を自然界最強にしている要素をこいつが宿してしまいます。魔法を使える者が食われると最悪です。本編登場のグンダルフォルムは、その長い生涯のどこかで治癒魔法を使える者を食ったのでしょう。討伐隊二万人を全滅させた時が最有力候補ですが、その前にムレブ先生のような魔導師を食べていた可能性もあります。
なお使えるようになった魔法は、人間どころではない巨体に満ちる魔力をベースにしますので、元の人間が使うものよりはるかに強力になります。本編登場のやつも炎魔法は燃料気化爆弾級、治癒魔法は自分の巨体をあっという間に治してしまうとんでもない威力で行使していました。それが激怒し全力をつぎこんだフィンへの攻撃は、核兵器いや波動砲(宇宙戦艦ヤマト)レベルの威力を持っていました。フィンが斬っていなければカルナリアたちどころか本当にグライル自体が吹っ飛んで、地殻を貫き破局噴火を引き起こし人類文明を滅ぼしていたかもしれません。

それほどに強大すぎる魔獣ですが、唯一、人間はじめ何をどれだけ食べても、「仲間と共に」という概念だけは宿しません。最強の存在にして巨大山脈ごとに一匹ずつしかいないという生き物の本能でしょう、同種同士は激しく憎み合い攻撃し合います。そうして相手を食らい能力を手に入れ強くなった同士がさらにぶつかり合い、やがて最強の一匹だけが残って山脈の主となるのです。

また、大きくなればなるほど、活動能力の維持のために長い眠りを必要とするようになってきます。これも自然の摂理というもの。
ただその眠りは何をしても目覚めないというようなものではなく、人間が寝床を探りあて忍びこみ攻撃なんかすると、すぐに目覚めて怒って猛烈に動き回ります。キャンプ中に虫に刺されて目が覚める、みたいな感じ。ファラも言っていますがそりゃ猛烈に叩き潰しにかかるというものです。したがって休眠中のこいつを攻撃するなら、最初の一撃で確実に殺せるようでなければやってはいけません。失敗した場合、「クッソうぜえ人類滅ぶべし」と山脈の外に向かって毒煙まき散らしだの魔力砲撃だのやり始めて、場合によっては山脈の外にも出てきて都会などを襲ってくるでしょう。
もっとも活動能力を維持するには生まれた山脈の魔力の流れか何かが必要なのでしょう、山脈から離れること自体は可能ですが、下界に居座ったり違う山脈に移動することはありません。下手な手出しをしなければ人類は生き延びられます。

今回、最強クラスに育ったグンダルフォルムが退治されたことで脅威がなくなりグライル山脈に人間も住み着けるようになったかと思われますが、幼体のどれかが生き延び成長するとまた……その時剣聖がいてくれるとは限りません。百年もすればまた山脈内を巨体がずるずる闊歩していることでしょう。こいつがいる限りグライル内の開発は三十年から五十年ごとにリセット。
とりあえず人間側としては、今回の件を語り継ぎ、グンダルフォルムの幼体をできるだけ退治するようにし続けて、大きくなったやつが出たら「学習の機会を与えず、最初の一撃で倒す」ようにするのが最善です。
しかし数十年ごとにしか現れなくなると、その伝承も色あせ、若い者は真剣に受け止めなくなり、忘れられ、そして……歴史は繰り返す。

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