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Footnote - Tincture

4話「ティンクチャ」についてのいくつかの脚注をこちらにて。

>>さらに精確を期すなら黄褐(テニー)、濃紫(マレー)、血赤(サングィン)、橙黄(オランジュ)、消炭(サンドレ)、淡茶(ブリュネトレ)、天青(ブルーセレステ)、薔薇紅(ロゼ)、銅(カパー)なども

テニー、マレー、サングィンの3色は少し詳しく踏み込んだ紋章学の本ではたまに触れられています。
Stain(ステイン、汚損色)という扱いをされており、「名誉剥奪」された紋章にのみ使われる色であったようです。
要は罪人の貴族が紋章を剥奪される代わりに紋章を「汚して」名誉を汚すというわけですね(実際のところ紋章を上下逆さにすることのほうが多かったようですけども)

曰く――
一に、偽の武勇を誇りたる者に対してはテニーの帯を盾の右側に付与すべし
ニに、1/4以上の刑期を終えた囚人を殺したる者に対してはテニーの逆弧を付与すべし
三に、主権者に虚偽申したる者にはサングィンの帯を付与すべし
四に、卑怯なる者サングィンの逆三角を付与すべし
五に、淫乱なる者は右三分の一をサングィンで切り欠くべし。酒乱なる者は左三分の一をサングィンで切り欠くべし。
六に、敵前で臆病に駆られし者は左三分の一をテニーで切り欠くべし
七に、決闘の要求を取り消したる者、紋の中央にテニーの四角を配すべし
八に、無作法にも女中や寡婦の意志を無視した上で求愛し、主権者から逃亡せし者、逆盾形を配すべし
九に、叛逆の罪犯したるもの、紋章を逆さに配置すべし

もちろんこれはただの条文であって、ステインが実際汚損色として使われた例はほぼまったくなかったようです(紋章の上下逆配置に関してはいくつか例があります)
マレーに関して言うならば比較的近代の紋章に使用例(有名なところではウェールズ大の紋章)があったりするので、汚損色の意味合いはさらに薄かったようです。

オランジュはかなり近年の使用例が多い基本色です。テニーによく似ていますがもう少し明るい色をしています。
南アフリカやフランスの一部コミューン、米陸軍のエンブレムに使用例が多くありますが、ペトラ・サンクタ方式(これは本編で解説する機会があるでしょう。1638年に制定)にもきちんとオランジュの存在がある以上、それなりに歴史のあるティンクチャだと見ていいでしょう。

サンドレはドイツで比較的使用例の多い基本色です。色味としてはねずみ色というか灰色というか。基本色の扱いとなるので金属色のアルジャントの上に置けるのですが、視認性低くなるので大丈夫なんだろうかとは思います(実は中世ブリテンに「サンドレの上にアルジャントの縦菱型3つ」なんていう結構ヤバいモノが実在していた)

ブリュネトレはアフリカでの採用が多い色です。南アフリカは入植によりヨーロッパの風習が流入し、それと同時に「紋章を制定する」という文化も比較的早く根付いた土地でした。
ゆえに、アフリカ特有の紋章形態が発展していっているのも興味深いところです。実はアフリカ独自の基本色なんてものも2色ほど確認されています(オーカー(赤褐色)とケニアレッド(濃赤色))

ブルーセレステはアズュールよりやや淡い青色で表されることの多い色です。「天の青色」という意味の色名ですが、どちらかといえば水を表す場合が多い印象があります(ファウンテンという基本図形によく採用されています)。
よほどのことがなければアズュール扱いにされてしまう色ですが、ごくごく稀にブルーセレステとアズュールを両方使い、両方の色を個別に指定している場合があります。

ロゼに関して言えば非常に新しい色です。いえ、紋章の基本色としての登場が、という意味ですが。
かなり濃い目のピンク色を指す場合が多いようです。
頻繁に登場するようになったのはそれこそ20世紀ごろと見られ、カナダや東欧の紋章においての採用が比較的多いようです(カナダは紋章学的には非常にホットな地で、新しい分割図形などがゴロゴロ出てきています。なんなんだこの国)

カパーは若干レアな「金属色」です。実際のところ使用例はさほど多くありませんが、ゼロではありません。印刷時は銅の茶色で置き換えることが多いようです。
実はカパーもカナダで比較的多く見られます。何なんですかねこの国本当。



……ここまで書いておいてなんなんですが、本編で「精確を期すなら」とか言いつつ書かなかった「基本色」がありまして。
あえて書かなかったというか書くのもためらわれたというか……
1点ではありますが基本色としてレインボウが確認されています。
虹色。
レインボウ。
いまだに詳細がつかめていないのもあり本編では割愛……ですが「アーミンにレインボウのワイヴァーン」という紋章が存在しているのを確認しています。
自由すぎやせんか。紋章。

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