• 詩・童話・その他
  • 現代ドラマ

8/14

面子にこだわるのはやめて。ぼくたちの人生のことを考えて、あなたが見てきた世界のことを教えて。物語をつくって聞かせて、何よりも大切なことはお話なんだ。お話は、つくられているその瞬間にぼくたちを生み出すんだよ。あなたが手を伸ばしすぎてつかみそこねても攻めないから。愛があなたの言葉に火をつけ、言葉が炎に包まれて焼け落ちて、あとには火傷しか残らなくても、外科医の手のような寡黙さで、あなたの言葉が血の流れ出そうなところしか縫い合わせないとしても、完璧にできないのはわかってる。情熱だけではだめだし、技術があってもまだ足りない。でも、試してみて。ぼくたちのために、あなたのために、世間での評判を忘れて、暗闇や明るい場所で世界があなたにとってどんなものであったのかを話して。……名のないものの恐さから、ぼくたちを守るのは言葉だけ。言葉だけが瞑想なんだ。



――トニ・モリスン、1993年ノーベル文学賞受賞スピーチより(ある民話を紹介する部分)

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する