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誰しも運命に手をひかれて死に直面する瞬間、数十年の生涯が泡のように消える刹那、今までの事は悉く夢であつたと腹の底から悟らないであらうか。覚醒時を座標とすれば眠る意識の出来事は夢である。ともあれ私は夢を好む。夢は自由な創造の世界を開拓する。与件を踏板として高踏するところに夢と芸術との共通点がある。私は夢に就いて語りたい。夢を語ることは夢の中で夢を語ることであつてもいい。私は夢を語る間だけでも美しい夢を見たい。






              九鬼周造「未発表随筆」『全集第五巻』(一九八一)

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