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  • 12月22日

    12/22

    引力は一つしかない 白鳥がおぼれる しずむしずむしずむ みずにうつる おのれのかげをのみほし 白い点が青にきえ あるはただ空と海と だれがならした 白鳥の黒い手風琴? さざなみのたつ ことももうなくて         長谷川四郎「白鳥の歌」
  • 12月22日

    12/22

    それほどぼくはきみのことを夢にみた それほどぼくは行進し それほどぼくは話し それほどぼくはきみの影を愛した もうきみについては なんにもぼくにのこっていないくらいに あとはただぼくが たくさんの影のなかの影となるばかりだ 影の百倍も影となるばかりだ この影は立ちかえり また立ちかえることだろう 日に照らされたきみの生活の中に          ロベール・デスノス『最後の詩』
  • 12月14日

    12/14

    つまるところ、幸せとは煩悩に気づく不快さと、それに支配される不快さのどちらを選ぶかの問題だ。        ヨンゲイ・ミンゲール・リンボチェ(チベット仏教の瞑想指導者)
  • 11月25日

    11/25

    […]古くから言われているように、人は地獄の旅には道連れがほしいものなのだろう。                     ウィリアム・M・サッカリー『虚栄の市』
  • 11月22日

    11/22

    私は自分のカラダを他人と重ねて、 お金を稼いで愛を表現してきたの。 歪んでるかもしれないけれど、 私にとつては最上級の愛情表現だつた。 一枚一枚の諭吉(1万円札)に私の犠牲が入つてゐて、 その数字で愛を示してゐたの。   統合失調症とASDを抱える女 琴音(31歳)『ルポ新宿歌舞伎町 路上売春』
  • 11月15日

    11/15

    わたしはまるで催眠状態にあるかのような、世間の出来事についてはまるっきり無知なのです。                            エミリ・ディキンソン
  • 11月14日

    11/14

    「いひしらぬ絶望のなかに囚人のなげくがごとく、」 かかる句を或る詩集のうちに見出して、 私は作者に次のごとく告げたく思ふ。       * 人間は誰でも絶望のなかに生き得るものではない。 他からは如何に望なく思はれる哀れな囚人でも、 その魂は飽くまで不思議に望を持ち続けてゐる。 こゝでの見聞と体験を通じて、 人間は絶望に耐へ得ない動物であることを君に証言する。       * 十五年二十年の懲役を言ひ渡されて居る者は、 こゝの受刑者の大半を占めて居るが、 一人でも出獄の日に望をかけて居ない者はない。       * 六十乃至七十を越した老人も、無期懲役の累犯者も、 こゝで死ぬると覚悟して居る者は一人もなく、 いづれも皆仮釈放にはかない望をつないでゐる。       * たまにさうした望を失ふ者がゐると、 あらゆる厳重な警戒にも拘らず――年に一人か二人は、――自分で自分をくびりて死ぬる。 ところで詩人よ、あなたはまた歌つてゐる。 「輝きにほふ世界と思つた此の世界は 暗い牢獄(ろうや)に過ぎなかつた」と。       * これは本当です。だが敢て私はさゝやく、 私はただに此のコンクリ―トの牢屋ばかりではなく、 人生の牢獄(ろうごく)を出る日をも待ち望んでゐる者だと。                     川上肇「獄中秘曲(その二、希望)」
  • 11月7日

    11/7

    おとうさん、おかあさんがいないせかい じゆうで、ひろびろとして、あたまのうえに真っ青な空がある おとうさん、おかあさんのいないせかいを、わたしはずっとねがっていた ねがいながら、そんな日がくることを ほんきで信じてはいませんでした おとうさん、おかあさんのいないせかい 好きなところへ、いつでもいける かえってこなくてもいい 死んでしまってもいい もうだれも、ほんきでわたしを待っていない 幼いころにおとうさん、おかあさんをうしなったこどもは どんなにじゆうでさびしかったか それがいま ようやく わかる おわってしまったものの圧倒的な力が 帯のように波打ちながらわたしに及び わたしをこのよのふちから突きおとす だれのこどもでもない、 もう、わたしは。                                            小池昌代『くたかけ』
    • 1件のいいね
  • 11月4日

    11/4

    <空の鳥を見なさい。種をまくことも刈り入れることもせず、また倉に納めることもしない。それなのにあなたがたの天の父は、これを養ってくださるのである。(略)だからあすのことを思いわずらってはならない>              (新約聖書 マタイによる福音書 摂理への信頼より)
  • 10月31日

    10/31

    たとひ力は乏しくも 出し切つたと思ふこゝろの安けさよ。 捨て果てし身の なほもいのちのあるまゝに、 飢ゑ来ればすなはち食ひ、 渇き来ればすなはち飲み、 疲れ去ればすなはち眠る。 古人いふ無事是れ貴人。 羨む人は世になくも、 われはひとりわれを羨む。                            河上肇「老後無事」
  • 10月31日

    10/31

    私は牢の中で 便器に腰かけて 麦飯を食ふ。 別にひとを羨むでもなく また自分をかなしむえもなしに。 勿論こゝからは 一日も早く出たいが、 しかし私の生涯は 外にゐる旧友の誰のとも 取り替へたいとは思はない。         川上肇「旧い友人が新たに大臣になつたといふ報せを読みながら」
  • 10月31日

    10/31

    国家はすべての冷酷な怪物のうち、もつとも冷酷なものとおもはれる。それは冷たい顔で欺く、欺瞞はその口から這ひ出る               (金子光晴『落下傘』昭和二〇年五・五 端午の日)
  • 10月30日

    10/30

    大学の階段教室で ひとりの学生が口をひらく ぱくりぱくりと鰐のようにひらく 意志とはなんのかかわりもなく 戦場である恐怖に出会ってから この発作ははじまったのだ 電車のなかでも 銀杏の下でも ところかまわず目をさます 錐体外部系統の疾患 学生は恥じてうつむき口を淹う しかし 年若い友らにまじり 学ぶ姿勢をいささかも崩そうとはしない ひとりの青年の切りさいてすぎたもの それはどんな恐怖であったのか ひとりの青年を起きあがらせたもの それはどんな敬虔な願いであったのか 彼がうっすらと口をあけ ささやかな眠りにはいったとき できることなら ああそっと 彼の夢の中にしのびこんで 少し生意気な姉のように “あなたを知らないでいてごめんなさい” 静かに髪をなでていたい 精密な受話器はふえてゆくばかりなのに 世界のできごとは一日でわかるのに “知らないことが多すぎる”と あなただけは告げてみたい。                    茨木のり子『対話』
  • 10月11日

    10/11

     何十万という人びとが、あるちっぽけな場所に寄り集まって、自分たちがひしめきあっている土地を醜いものにしようとどんなに骨を折ってみても、その土地に何ひとつ育たぬようにどんな石を敷きつめてみても、芽をふく草をどんなに摘みとってみても、いや、どんなに木の枝を払って獣や小鳥たちを追い払ってみても――春は都会のなかでさえやっぱり春であった。太陽にあたためられると、草は生気を取りもどし、すくすくと育ち、根が残っているところではどこもかしこも、並木道の芝生はもちろん、敷石のあいだでも、いたるところで緑に萌え、白樺やポプラや桜桃(みざくら)もその香りたかい粘っこい若葉を拡げ、菩提樹は皮を被った新芽をふくらませるのだった。鴉や雀や鳩たちは春らしく嬉々として巣づくりをはじめ、蠅は家々の壁の日だまりのなかを飛びまわっていた。草木も、小鳥も、昆虫も、子どもたちも、楽しそうであった。しかし、人びとは――もう一人前の大人たちだけは、相変わらず自分をあざむいたり苦しめたり、お互い同士だましあったり、苦しめあったりすることをやめなかった。人びとは神聖で重要なものは、この春の朝でもなければ、生きとし生けるものの幸せのために与えられた、この神の世界の美しさ――平和と親睦と愛情に人びとの心をむけさせるその美しさでもなく、互いに相手を支配するために自分たちの頭で考えだしたものこそが、神聖で重要なものだと考えていた。              トルストイ『復活』(訳:木村浩、新潮社、2010)
  • 10月11日

    10/11

    Rows and floes of angel hair And ice cream castles in the air And feather canyons everywhere Looked at clouds that way But now only block the sun They rain and they snow on everyone So many things I would have done But clouds got in my way I’ve looked at clouds from both sides now From up and down and still somehow It’s cloud illusions I recall I really don’t know clouds at all Moon and June and Ferris wheels The dizzy dancing way that you feel As every fairy tale comes real I’ve looked at love that way But now it’s just another show And you leave ‘em laughing when you go And if you care, don‘t let them know Don‘t give yourself away I looked at love from both sides now From give and take and still somehow It’s love’s illusions that I recall I really don’t know love I really don’t know love at all Tears and fears and feeling proud To say, “I love you.” light out loud Dreams and schemes and circus crowds I’ve looked at life that way Oh, but now old friends, they’re acting strange And they shake their heads and they tell me that I’ve changed Weel, something lost, but something gained In living every day I’ve looked at clouds from both sides now From up and down and still somehow It’s cloud illusions I recall I really don’t know clouds at all It’s life’s illusions that I recall I really don’t know love I really don’t know love at all Joni Michell “Both Sides Now”
  • 10月11日

    10/11

    自分の詩だから『自分詩』、これでいきましょうかというと もっと詩集全体をやさしく包む、柔らかなタイトルにしたほうが、 と死んだ姉はいいました 包むのは『風呂敷』だし、柔らかいのはプリンと毛布だ ふたつあわせて『プリン毛布』、これでは何だかきたならしい 韻を踏まえて『豆腐毛布』 『トルフ&モルフ』とすればアニメ風 もっと元気なタイトルのほうが、と死んだ兄がいいました 『レッツゴー青春』 『燃えろ新宿アカプルコ』 きらきらした目で兄はいいます 三十年前、十七歳で あの世にレッツゴーした人らしいセンスです 『ニャン子ニャン太郎』と死んだ猫がいいました 『チュー子チュー太郎』ともう一匹の死んだ猫がいいました はいはい、気持ちだけいただきましょう 猫の考えることなんてしょせんこの程度です 『プップカプー』と死んだ弟がいいました ラッパでしょうか車でしょうか 五歳にしてはいうことが幼い だから早死にしたのでしょうか 『岡っ引きのゴーシュ』と死んだクラスメートがいいました 数学の得意な人だったのに 自分が病気になることは計算できなかったみたいです 半袖の白い体操服の津田君 なつかしい笑顔です わたしは皆に提案します 『自分詩』がだめなら『指紋』はどうでしょうか 詩と指紋とはよく似ているし 「美術の秋指紋ぺたぺた降車ボタン」という俳句をつくって 人にほめられたこともある 指紋がだめなら『どた靴どたどた』 靴がだめなら『ばた足ばたばた』 『蓮華生邦岳博道善士』、死んだ叔父が低い声でいいました おじちゃん、それって戒名じゃん いいんだよ、詩集を出すなんて葬式みたいなもんだから おれの友人に詩集を出すたび女と別れるやつがいた いや、女と別れるたびに新しい詩集を出すのだったか 詩集ったってぺらぺらぺらの自家製だけど 『プップカプー』と弟がもう一度いいました 言葉がうんと少ない子でした だから早死にしたのでしょうか しんちゃん、詩集のなかに気に入った言葉があったら どれでももっていっていいからね 『売文稼業』、死んだ亭主が澱んだ声でいいました お前が書くのは駄詩駄文ばかり 売るほうも売るほう買うほうも買うほう なーにが詩人だよ! ぺっぺとつばを吐きました みんなもこっそりうなずきました 『どん底』とゴーリキーがいいました 『ぼんじり』と死んだニワトリがいいました                        平田俊子「タイトル会議」
  • 9月23日

    9/23

    水の悔恨がたへまない いくへにも遠く 孤閨がえらばれて にくたいが盗まれてゆく ほのかに微風にもどり かすかなもの 愛にうたせて しづかに彫刻の肌ををさめてゐた たへて醜(しこ)をくりかへし 神の さぐれば かなしく まねけば さすがにうなだれて                 牧野虚太郎「神の歌」
  • 9月21日

    9/21

    われらの獲物は一滴の光            ルネ・シャール
  • 9月21日

    9/21

    言葉は畢竟 死者たちのものだから 人は言葉を覚え いつしか死者たちと話がでkるようになる                      松本邦吉『灰と緑』
  • 9月9日

    9/9

    叱られたこともありしが草の露  高群逸枝
  • 9月7日

    9/7

    草の背を乗り繼(継)ぐ風の行方かな  多田智満子
    • 1件のいいね
  • 9月3日

    9/3

    どんな所に置かれても光る言葉を 首にかけて置きたい 何時までたっても色あせない言葉を 目の底にやきつけて置きたい 長い長い時間の歴史の上で 美しい風化を遂げた言葉の清潔さを 耳に飾っておきたい  私は言葉の墓だ 私の血と肉をくぐって 言葉が甦ってゆくのを眺めながら 私の土壌は果てしなく広がり 私の骨が言葉に喰入ってゆくのを見送ろう そして 言葉と骨が溶解して 純粋な風化を遂げ 私の墓の上で貝殻のようにちらばり 粛然と雨にうたれている 墳墓でありたい           大島青松園 塔和子「墓」           『ハンセン病文学全集7 詩 二』
  • 8月31日

    8/31

    わたしは彼女をみごもり 彼女はわたしをみごもり つまりわたしは 母系の森の中の 産室にいるようなものだ わたしが生もうとして まだ産みえないでいるのは 人間世界である 調和や分離を人間存在の そもそもの原理だと この頃思うようになった                         石牟礼道子「森の家の日記」
  • 8月20日

    8/20

    魂の渇きに苦しみ 暗い荒野をわたしはさまよい歩いた すると六枚の翼をつけたセラフィムが わかれ道でわたしのまえに現れた 夢のようにかろやかな指で セラフィムはわたしのひとみに触れた 驚いた鷲さながらに 予言のひとみが開かれた セラフィムはわたしの耳に触れた するとざわめきや物音が わたしの耳をみたした わたしいは耳にした 天のふるえを 天駆ける天使たちを 海の底に歩む爬虫類を 谷間の蔓が伸びるのを そしてセラフィムはわたしの口もとに近づき おしゃべりで狡猾な わたしの罪深い舌を抜き 聡明な蛇の舌を わたしの凍えた口に 血塗れの手で押しこんだ そして彼はわたしの胸を剣で切り裂き 震える心臓をとりだすと 炎をあげて燃える炭火を 開いた胸に押しこんだ 死体のようにわたしは荒野に横たわっていた 神の声がわたしを呼んだ 「立て、預言者よ、目をあけ、耳をひらけ わが意思にみたされよ 海をめぐり陸をめぐり 人の心をことばでみたせ」                         アンドレイ・タルコフスキー
  • 8月14日

    8/14

    繩繩不可名 復歸於無物 是謂無狀之狀、無物之象 是謂惚恍 迎之不見其首、隨之不見其後 執古之道、以御今之有 能知古始、是謂道紀             老子『道徳経』十四
  • 8月13日

    8/13

    花発多風雨 人生足別離         于武陵「勧酒」 花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ        井伏鱒二 訳
  • 7月6日

    7/6

    きみひとり在らざらむため他界より電話のありて誰か伝へむ                              山中智恵子
  • 7月5日

    7/5

    聖霊を生きよとぞきみまなうらの星にかへさむことのはの数 山中智恵子
  • 6月26日

    6/26

    ほんの昨日まで あなたはいかにも手なれた身ごなしで すれちがう無数の人たちとやりすごし なげかけたことばとなげかれられたことばのはざまを ほとんどなんの苦もなくすりぬけていったので あなたはもうとどのつまりまるですきとおってかろやかな 空気のように日常のなかにあった ほんの昨日まで にぎやかに談笑しすこやかに飲食し 夜ふけのベッドで妻を抱きしめたとしても あなたがそこにいるそのことに だれひとりつまづくことはけっしてなかった そして突然 あなたがひとつの死体(ボディ)になったとき なんとたくさんのひとたちが たったさっきまであなたがいたその穴の深さ におどろいたことか もはや身じろぎひとつしない死体の重たさに ひとりひとりがめいめいのやりかたでつまずきながら ひとびとはたぶんはじめて あんあたとめぐりあったのだ 死体になったあなたから あなたすら知らなかったあなたの精魂が しみじみと・かつはまぶしく晴れがましく つぎからつぎへとたちあらわれて あなたはかけがえもなく生きたことを ついに証したのだった             征矢泰子「鎮魂歌(レクイエム)は歌わない ――Yに」
  • 6月24日

    6/24

    悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思つてゐたのは間違ひで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であった。                           (正岡子規『病狀六尺』)
  • 6月24日

    6/24

    池田澄子 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの ピーマン切って中を明るくしてあげた 前ヘススメ前ヘススミテ還ラザル
  • 6月20日

    6/20

    そして突然 あなたがひとつの死体になったとき なんとたくさんのひとたちが たったさっきまであなたがそこにいたその穴の深さ におどろいたことか もはや身じろぎひとつしない死体の重たさに ひとりひとりがめいめいのやり方でつまづきながら ひとびとはたぶんはじめて あなたとめぐりあったのだ                       征矢泰子「鎮魂歌は歌わない―Yに」
  • 6月20日

    6/20

    さようなら わたしたち仮りそめの家族の肖像。 ばらばらになったジグゾー・パズルは おもいきって捨ててしまおう。 これからはただ往き往くばかり。 断片からめいめいのたったひとつの像(かたち)へ。 わたしたちは出発するのだけっしてふりかえらない旅を。 生んで・育てて・捨てて・はじめて きれいなひとりになった。 わたしの行く先はだれにも教えない。                            征矢泰子「旅立つ夏」
  • 6月20日

    6/20

    さがされて、いたい。 うまれて、しまった以上。 いやされることなどのぞむべくもなく。 せめてただ、だれかに さがされていたい。 うみおとされたときからささっていた。 ささやかなめいめいの死の棘。                   征矢泰子「死の棘」
  • 6月20日

    6/20

    深い傷の淵から ゆっくりと癒されていくとき 傷口のさらにおくから すこしずつ湧きあがってくる この世でもっともすみ切った水にあらわれて 傷口はやがて新しい目になるだろう もはやなんのためらいもなく まっすぐ天にむかってひらかれたレンズの 焦点は深く視界は広く ついに新しいおのれの星を発見するそのとき あれほど痛かった傷口は しずかに満々と水をたたえて 天にもっとも近い湖 新しい星一つうかべて なおはげしくのぞみつづけるだろう さらにあたらしい目差しだけを                             制矢泰子「治療」
  • 6月20日

    6/20

    米川千嘉子 自らの性呪はざるを得ぬ世に生れてああはるかなり両性具有(アンドロギュノス) 「呪ひが解けた」と閉経をいふ友ありて祝賀の生ビールを注ぎぬ いかなる思慕も愛と呼びたることはなくてわれの日記は克明なりき 側室の乳房(ちち)つかむまま切られたる妻の手あり われは白米を磨ぐ
  • 6月13日

    6/13

    酸っぱくなったワインに浸ってぼくは詩を書きはじめる。 木炭なしに煤をどう書く、 痰なしに咳をどう書く、ぼくが 汚れているとしたら、穢れのないぼくをどう書く? 怒ってぼくは泡で殴り書きをする、 肺の中を煙と湿気でいっぱいにして、 玉葱だらけの詩句の中のぼくの孤独が 物陰で片隅でぼくに痛みを与える。 激怒に引き裂かれ、打ち負かされて、 ぼくは亡命の身で、悲しく、ぼくの貧窮の中の わが民族の空腹に苛まれている。 涙と膿に塗れてぼくを書きつづける。 偽の歌物語の中で半ば死にながら、 半ば生き、生きながらえていく。          ペドロ・シモセ『ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり』
  • 6月6日

    6/6

    わたしを破壊(こわ)してこなごなに支離滅裂に わたしを裂いてほそくもっとほそく梳かれる髪にまで わたしを溶解(とか)してやわらかくさらに流れる水になるまで                         征矢泰子「いのり」
  • 6月6日

    6/6

    なぜ風は薫るのか なぜ花は色とりどりなのか なぜ果物はあまいのか なぜなぜなぜのひみつを 水がうたって流れていく 川のほとりで そのうた声をいちにち聞いてすごしたのに それらを告げる言葉を知らなかった こどもが言葉をあやつれるようになったころ 世界はとつぜんだまってしまったのだ あれから数十年 私の中に閉じ込められたまま 一人のこどもが泣いている つないでいた手から とうにはぐれて 私をみつめる 涙にぬれたこどもの瞳が 私は いとおしい                       岡島弘子「世界がだまる」
  • 6月6日

    6/6

    深い傷の淵から ゆっくりと癒されていくとき 傷口のさらにおくから すこしずつ湧きあがってくる この世でもっともすみ切った水にあらわれて 傷口はやがて新しい目になるだろう もはやなんのためらいもなく まっすぐ天にむかってひらかれたレンズの 焦点は深く視界は広く ついに新しいおのれの星を発見するそのとき あれほどいたかった傷口は しずかに満々と水をたたえて 天にもっとも近い湖 新しい星一つうかべて なおはげしくのぞみつづけるだろう さらにあたらしい目差しだけを                               制矢泰子「治癒」
  • 6月6日

    6/6

    なぜあれほど たったひとつのらちもないことばに こだわりつづけていたのだろう なぜにくむのかなぜかなしむのか わたしのなかで ほぐしようもなくむすぼれていたおもいが しろいしくらめんのはなびらのうえを いま やわらかくほどけながらとおくとおく とおざかっていくのがみえます                          征矢泰子「白いシクラメン」
  • 5月31日

    5/31

    あめがふると おかあさんがむかえにくる おかあさんがつぎつぎに いろとりどりのかさをさしてむかえにくる ひゃくにんくらいむかえにくる ときどき かさをわすれてくることもあるけれど こどもとわらいあいながら おかあさんはあめのなかにきえていく かぜといっしょにくることもある なきながらきたのは ろくねんまえの つめたあいいさんがつのうみに きえてしまったおかあさん あめのなかへ ごねんにくみのむすこをつれてもかえれず くつばこのなかの よごれたうわぐつをみていた あめをみあげるむすこにきづいても こえをかけられずに しずかにかえっていった すねのながい ひざのよごれたおとこのこは あめがふると しんだおかあさんが むかえにくるようなきがして いつもまっているのだった あめをみあげると そんなきがしてならなかった しばらくするとおとこのこは あめにぬれながらひとりかえっていった いつもはすなぼこりにまみれたこうていに しみるようなあめがやってきて うみのようにみえた                 なんどう照子「あめ」
  • 5月30日

    5/30

    花火大会の夜、蒸し返すように気だるい人混みの中で、 やっぱりわたしは一人ぼっちだった。 ここにいるのに、ここにいない。 誰もわたしに気が付かない。 人の流れに逆らって 何度も人にぶつかりながら、 次から次へ目に飛び込んでくるのは 顔 顔 顔 男に媚びるような化粧をした女たち。 女を舐め回すような目で見る男たち。 みんな不気味で同じ顔、みんなセックスで頭がいっぱい。 そんなこと思ってるわたしが一番卑しい人間だと思うけど。 空っぽでヘドが出そうな音楽が流れると同時に、 心臓をえぐるような爆発音の花火が打ちあがって、 桟敷の人々は大きな歓声をあげた。 わたしは、ある戦争経験者の 「焼夷弾を思い出すから、花火は嫌い」という言葉を思い出していた。 その言葉を思い出しながら、 「今、花火が爆発したら、こいつら全員燃えるのかな」 と考えていた。 自分はつくづく不謹慎で邪悪な人間だと思う。 先生に何十回目かの呼び出しを食らって、 職員室の横の小さな部屋のいつもの椅子に座る、空っぽなわたし。 ただ一点を見つめて、かたく口をつぐんだまま。 わたしが学校以外の場所でも徐々に精神を蝕まれて、 邪悪な欲望に浸蝕されつつあって、 本当のところ、何に苦しんで何に絶望しているのかなんて、 言ってもわかるはずがない。 黙ってうつむいたまま、一点を見つめるわたしを見て、 先生は諦めたようにため息をついた。 いつもの光景だった。 洗っても洗っても下水のような不快な臭いが消えず、 不登校で授業をほとんど受けていないから、勉強がさっぱりわからない。 友達が何が面白くて笑っているのか、全くわからない。 それでもある日、わたしが初めて「声」を出したことがあった。 同じ部活の部員たちに嗤われて「爆発」して、 言葉にならない言葉でわめきながら、 彼女らを学校中追いかけ回したのだ。 次の日から、一切のクラスメイトがわたしを避けるようになった。 保護者の間で 「あの子は危ないから付き合うな」 と連絡が回ったのを知ったのは、それから暫くしてからだった。 特別な人間になりたいわけじゃない。 いや、特別な存在になりたいのか? 自分が取るに足らない人間なんだって こんなにも思い知らされてるのに。 言ってもわからない。 言ってもわかるはずがない。 わたしが中学校の屋上の柵を越えて飛び降りようとする絶望を 親もきょうだいも先生も友達も わかるはずがない。 「狭い世界に閉じこもるな、もっと大きな世界に向けろ。」 「君より大変な思いをしている人は、世界にいっぱいいるんだ。」 「みんな孤独を抱えている」 「もっと他者に優しい眼差しを」 わかってる。わかってるけど、 今のわたしが欲しいのは、そんな真理や言葉じゃないんです。 わたしが欲しいのは、わたしの神様。 神様は、踏み絵を踏んだわたしに向かって、こう言うんです。 「踏むがいい。お前の足の痛さをこの私が一番よく知っている。」 だけど、それは本の中の話で、 実際はそんな神様なんてきっといない。 長い夜が明けて、また絶望的な朝がやってくる。 だから、明日も わたしは学校に行きたくない。                   村岡由梨「学校に行きたくない」
  • 5月29日

    5/29

    近所の美容室で ばっさり 髪を切った はじめてのショートカット 教室のドアをあけて 定位置に 着席する とりわけ この髪型について 声をかけてくるひとはいなくて 先生にからかわれたくらい。 綻んでいく蕾の顔をした おちつきのない皆と 明るみに躊躇して 咲こうとしないわたしがいて こころもとない三月 遅すぎることはないってでたらめだ 遅すぎるから何度でものりおくれる うららかな教室が 汽車になって前進する 髪を切っても わたしはわたしと交代せずに 駅のホームに置き去りになる              三角みづ紀「春分の日」
  • 5月20日

    5/20

      Ⅰ 水 わたしのなかにいつも流れるつめたいあなた 純粋とはこの世でひとつの病気です 愛を併発してそれは重くなる だから あなたはもうひとりのあなたを 病気のオンディーヌをさがせばよかった ハンスたちはあなたを抱きながら いつもよそ見する ゆるさないのが あなたの純粋 もっとやさしくなって ゆるさうとさへしたのが あなたの堕落 あなたの愛 愛は堕落なのかしら いつも 水のなかの水のやうに充ちたりて 透明なしづかないのちであったものが 冒され 乱され 濁される それが にんげんのドラマのはじまり 破局にむかっての出発でした にんげんたちはあなたより重い靴をはいてゐる 靴があなたに重すぎたのは 誰のせゐでもない さびしいなんて はじめから あたりまへだった ふたつの孤独な接点が スパークして とびのくやうに ふたつの孤独を完成させる 決して他の方法ではなされないほど 完全に うつくしく 吉原幸子『オンディーヌ』
  • 5月1日

    5/1

    ある日、私は、 取っ手のないドアの向こう側で 踏み台を蹴り飛ばして首を吊った。 娘たちが幼い時、戸棚のお菓子を取ろうと 背伸びをして使っていた踏み台だ。 もう二度と、あなたたちを残して逝かない、 と固く約束したのに。 せめて、あなたたちにきれいな詩を遺そうと、 言葉を書き留めたはずのノートは白紙のまま。 命は有限なのに、 無限に続くと信じて生きていたのはなぜだろう。 この世に永遠に続くものなんて無いのにね。 組み立てては崩してしまうブロックのおもちゃみたいに、 何度も「家族」を組み立てては壊してきた私たち。 いつの間にか女性らしい丸みをおびた体を セーラー服で隠して、 「家を出る、もう帰って来ない。」 と言って、眠は  母親である私を振り返ることもなく、出て行った。 赤い絵の具を使って 大好きな猫のサクラの絵をひたむきに描いていた眠。 小刻みに肩を震わせて、 決して泣き顔は見せまいと サクラの背中に顔を埋めていた眠。 サクラはザラザラの舌を伸ばして 一生懸命、眠の悲しみを食べていた。 蛍光色の段ボールのフタをこじ開けて、 これが最後だと信じて、盗みをはたらいた。 いつでもこれが最後だと信じて 何度も何度も盗んで 何度も何度もやめようとした。 けれど私はズルズルと罪を重ねて、 「私には生きてる価値がない」 そう言って、母を散々困らせた。 母は悲しそうな顔をして、何も言わなかった。 そして、今 「わたしなんて、どうでもいい人間」 「どうしてわたしを生んだの」 と大粒の涙を流して、私を責める花がいる。 花は盗まない。花は嘘をつかない。 けれど、わからない。 私なんかが一体どんな顔をして、 どんな言葉を花にかければいいのだろう。 私は眠で、眠は私。私は花で、花は私。 あの日、取っ手のないドアの向こう側で首を吊ったのは、 私だったか、眠だったか、花だったのか。 森の奥深くの静寂な湖に 紫色のピューマになった私たちの死体が浮かんでいる。 誰が訪れるということもなく 傍らには、4枚の花弁に引き裂かれた私たち家族の花が ひっそりと咲いていた。 夕暮れ時の、不吉な色の空の下 霧に包まれた林間学校から抜け出して、 もうここには戻りたくないと                        村岡由梨『眠れる花』
  • 4月15日

    4/15

    […]天地の公理は右巻きであり、人間の公理は左巻きであって、その接するところが臍である[…]                      林武「星女嬢」『絵のなかの散歩』
  • 4月11日

    4/11

    わたしは銀貨を一つふところに持つてゐて うすぐらい勝手に立つてゐた 身うごきもしなかつた 干魚の臭ひがしてゐた 母のこゑがしてゐた そのたびわたしはびつくりした わたしは啼きじやくつてゐたが 銀貨はしらないとこたへた 頬はいくども打たれた が やはり知らないとこたへた 母はまもなく去つた 干魚の匂いひがしてゐた わたしがじやりじやり干魚をかじり出した 干魚はうまかつた わたしの足のうらには さッきの銀貨が踏まれてゐた こんどは父がきた わたしは干魚を握つてゐた手を 無理にコヂあけられた 父は干魚をもつて母のところへ行つた わたしはやつと銀貨を手に握りしめた 父と母とあらそふこゑがした わたしはそれでも銀貨をかへさうとしなかつた                        室生犀星「盗心」
  • 4月8日

    4/8

    ずっと、ずっと大昔 人と動物がともにこの世に住んでいたとき なりたいと思えば人が動物になれたし 動物が人になれた。 だから時には人だったり、 時には動物だったり、 互いに区別はなかったのだ。 そしてみんながおなじことばをしゃべっていた。 その時ことばは、みな魔法のことばで、 人の頭は、不思議な力をもっていた。 ぐうぜん口をついて出たことばが 不思議な結果を起こすことがあった。 ことばは急に生命をもちだし 人が望んだことがほんとにおこった―― したいことを、ただ口に出して言えばよかった。 なぜそんなことができたのか だれにも説明できなかった。 世界はただ、そういうふうになっていたのだ。            「魔法のことば」 (イヌイットの伝説より 金関寿夫訳)
  • 4月8日

    4/8

    その時、門徒イエスに就きて言へり、天国に於いては誰が大いなる。イエス幼子を召して、彼等の中に立てて言へり、我誠に汝等に告ぐ、汝等若し転じて、幼児の如くならずば天国に入るを得ず。故に此の幼児の如く自ら謙らん者は、是れ天国に於て大いなるものなり。又我が名に依りて是くの如き幼児の一人を接けんものは、我を接くるなり。然れども我を信ずる此の小子の一人を罪に誘はん者は、寧磨石を其頸に懸けられて、海の深みに沈められん                            マタイ伝一八章一~六節
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