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自分の詩だから『自分詩』、これでいきましょうかというと
もっと詩集全体をやさしく包む、柔らかなタイトルにしたほうが、
と死んだ姉はいいました
包むのは『風呂敷』だし、柔らかいのはプリンと毛布だ
ふたつあわせて『プリン毛布』、これでは何だかきたならしい
韻を踏まえて『豆腐毛布』
『トルフ&モルフ』とすればアニメ風
もっと元気なタイトルのほうが、と死んだ兄がいいました
『レッツゴー青春』
『燃えろ新宿アカプルコ』
きらきらした目で兄はいいます
三十年前、十七歳で
あの世にレッツゴーした人らしいセンスです
『ニャン子ニャン太郎』と死んだ猫がいいました
『チュー子チュー太郎』ともう一匹の死んだ猫がいいました
はいはい、気持ちだけいただきましょう
猫の考えることなんてしょせんこの程度です
『プップカプー』と死んだ弟がいいました
ラッパでしょうか車でしょうか
五歳にしてはいうことが幼い
だから早死にしたのでしょうか
『岡っ引きのゴーシュ』と死んだクラスメートがいいました
数学の得意な人だったのに
自分が病気になることは計算できなかったみたいです
半袖の白い体操服の津田君 なつかしい笑顔です
わたしは皆に提案します
『自分詩』がだめなら『指紋』はどうでしょうか
詩と指紋とはよく似ているし
「美術の秋指紋ぺたぺた降車ボタン」という俳句をつくって
人にほめられたこともある
指紋がだめなら『どた靴どたどた』
靴がだめなら『ばた足ばたばた』
『蓮華生邦岳博道善士』、死んだ叔父が低い声でいいました
おじちゃん、それって戒名じゃん
いいんだよ、詩集を出すなんて葬式みたいなもんだから
おれの友人に詩集を出すたび女と別れるやつがいた
いや、女と別れるたびに新しい詩集を出すのだったか
詩集ったってぺらぺらぺらの自家製だけど
『プップカプー』と弟がもう一度いいました
言葉がうんと少ない子でした
だから早死にしたのでしょうか
しんちゃん、詩集のなかに気に入った言葉があったら
どれでももっていっていいからね
『売文稼業』、死んだ亭主が澱んだ声でいいました
お前が書くのは駄詩駄文ばかり
売るほうも売るほう買うほうも買うほう
なーにが詩人だよ!
ぺっぺとつばを吐きました
みんなもこっそりうなずきました
『どん底』とゴーリキーがいいました
『ぼんじり』と死んだニワトリがいいました




                       平田俊子「タイトル会議」

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