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「焦げたね」

リキッドファンデを買った。

いままで、ろくに化粧をしてこなかった。理由はさまざまあるが、最大のものを挙げるとしたら「首との明度差」だ。化粧を顔に合わせると首が白く見え、首に合わせると白塗りみたいな顔になる。
私の顔と首は多くの美容部員さんを悩ませ、それを見て私も諦めていた。

そもそも、私は自分の顔に興味が無い。
何を塗っても、違いが分からなかった。
ブサイクが無駄なあがきをしている、みっともない、そんな感情しかわかなかった。
まぁ、自己肯定感が低すぎるのである。

そんな人生を送る私に、再会した同級生の男がこういった。
「おまえ、……焦げた?」
そいつは、高校時代からイケメンだった。しかも、何も変わっていなかった。もう20年も経っているのにである。それどころか、なんかファンまで湧いている。当時はなんやかやで同等な立場の親友だったのに、なんなんだこの差は!

他にも、丸くなったかとか誰かわからんかったとか、いちいち心に刺さる言葉でご挨拶された。それも全部ショックだったのだが、地味に1番響いたのが『焦げた?』だったのだ。
高校時代は、私だってモテた。だけど女が一割という特殊環境だったから、あれは夢だと封をした。それまでのように、そのあとの人生もブスのデブとそしられながら日陰を歩いてきたのだ。

……でも『焦げた?』。『焦げた?』!!
あの頃の私は、色白でシミもなかった。デブというよりマシュマロなふわふわボディだった。
あいつみたいにそのまま歳を取れたとしたら、今も外見くらいは劣等感持たずに生きられただろう!だって人の優劣は、かなり外見に左右されるのだから!

悶々とした3ヶ月。
私はモールで髪をバッサリ切ったついでに、ふと美容品店に足が向いた。
ファンデーションのコーナーで立ち止まり、試供品を首に塗ってみた。
そのまま頬に。目の下に。シミに。
「違和感、ないやん」
首から顎を越えすんなりと、明るいベージュが広がっていく。もともと赤みのない顔だから、チークがなくても違和感ない。

すんごい悩んだ。今金ないし。
でも、なんか欲しくてたまらなかった。自分が変われる気がしてならないのだ。
決意して購入して、そのままトイレに行って顔中に塗った。
下地がないから少し粉っぽいけど、焦げはあらかた消えた。封をした時代に少し戻った、そんな感覚。

嬉々として、相方に自撮り写真を送り付けてやった。オシャレだと言って貰えた。
自己肯定感がわずかに復活して、世の中が化粧に走る気持ちがやっとわかった、気がした。

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