「もっと進みますか?隊長」
「いや、ここら辺でもういいだろう……さっさとその忌々しい赤子を捨ててこい、側に置くだけでも気持ち悪い」
「わ、わかりました……」
躊躇しながら馬から降りて、銀の鎧を身につけた青年騎士は決まりの悪そうな苦い表情で答えた。
「まだ迷ってるのか?」
「だって、この方は……!」
「気持ちはわかる!でも——」
そう言いつつ、布に包まれた赤子に指さしたもうひとりの顔には嫌悪の色が浮かぶ。
「災厄の獣、ローリンウルフ。曰く:その毛は月のように純白に蓄えており、両の緑眼は翡翠の如く無垢であると。そいつとまったく同じじゃないか!だから陛下もそいつをさっさと捨ててこいと命じたのだ。そいつは生まれた瞬間で、既に我々が仕えるべき皇室の者ではなくなったのだ」
青年は彼に顔を向けてひと目見て、また俯いて赤子の顔を見た。
「そう、ですね……」
そして顰めた眉間を解いた青年は自分の腕にいるまだ暖かい赤子と共に、寒気がするような暗い森の中へと足を踏み入れた。
その背中は冬の静寂の中、月明かりの元から少しつつ影に呑まれていく。