• エッセイ・ノンフィクション
  • 現代ドラマ

inspired by 『ココロをノックしてくれ』

「どうも、当タクシーをご利用いただきありがとうございます。どちらに参りましょうか」
「それが、僕は旅行でねえ。ホテルに帰りたいんだが、ホテルの名前を忘れてしまった。ただ、駅からの道はなんとなくわかるんだ。だからそのね、」


「先輩これ、このエクセルなんですけど」
「なに。やり方全部書いてるよ。ほら、この表のところにさ。この順番でやればいいから」
「でも、この手順だと、二回合計を出すことになりますよねえ。しかもここは手計算になってますよ。こんなの関数で一気に計算しちゃえばいいんじゃあないですか?」
「あのねえ。そのシートの中身を変えるには、稟議書を出して、部長会議を通して、通ったらお偉方にもわかる説明書を作成して、役員の過半数の賛成を得て、しかるのちダブルチェックをして、元のシートを使ってもう一度計算して、そこで出てきた三つの値が一つも違わないかをまたダブルチェックして、役員に承認を得るって工程が必要なの。そんな手間は掛けたくないから、君に作業を頼んでるわけ。
 それにさ、そうやって時間を浮かせたとして、君はそのあと何するのさ。急ぎの仕事がある? 何か自分からやるべき仕事を見つけた? そ。そういうこと。とにかくさ、今は余計なことを考えないで、」


「とにかく表通りにやってください」

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する