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KAC20214

 セルフレイティング:残酷描写あり、暴力描写あり
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 高校にあまりいい思い出はない。友達もほとんどいなかった。だから二度と足を踏み入れることもないと思っていた。
「それが、卒業してから2週間で来ることになるとはね。まだ2週間しか経ってないともいえるけど……なんだか悪いことをしている気持ちになったよ」
 力が抜けた声で岩井は言う。
「いやあ、やっぱホラ、コロナがありますからね。卒業式の日に送別会ってワケにも行きませんでしたけど、でも何もしないのもアレじゃあないですか」
 お茶を差し出しながら、内藤は言う。
 岩井は出された茶をおずおずと啜って、もごもごと礼を言う。
「正直その……内藤さんがどうして文芸部入ったのかとか、今一つ分かってなかったし、あのー……こういう、なんか先輩を敬うみたいなキャラだとは思ってなかったけど」
「なんすか、失礼ですねえ」
「いやでも、嬉しいよ。ありがとう」
 岩井がそう言うと、内藤は少しだけ痛みが走ったような顔をする。どうしたの、と聞こうとする岩井の機制を先して、内藤は言った。

「ドキドキッ、『ホラーorミステリー』ゲーーーーーェムッ!」
 突如叫びだした内藤に驚き、岩井はお茶をこぼしそうになる。
「は? え? あ? 何?」
「説明しようッ! ドキドキ『ホラーorミステリー』ゲームとはッ! 挙げられたタイトルが『ホラー』か『ミステリー』かを判定し、当てるゲーームであるッ!」
「何? クスリでもやってんの?」
「それは先輩の方ですよ」
 岩井は目をしばたたかせる。あっけに取られた岩井に、内藤は説明を続ける。
「問題は全部で5問です。1問正解するごとに、ペナルティが軽くなっていきます」
「ペナルティが、軽く……って、ひどくない? 賞品が豪華になるとかじゃなくて?」
「はい。ペナルティが、軽くなります」
「なんてゲームだ」
 呟く岩井に取り合わず、内藤は説明を続ける。
「例題です。『悪魔が来りて笛を吹く』。これはホラー? or、ミステリー?」
「それは知ってるよ。金田一耕助ものだから、さすがにミステリーでしょう」
「正解。もう一個例題です。『悪魔のいけにえ』。これはホラー? or、ミステリー?」
「ホラー。ちなみに原題は『テキサス・チェーンソー・マサクゥル』ね。チェーンソーで虐殺する映画がミステリーであってたまるか。まあ、ホラーというよりはサスペンスな気もするけど、ミステリーではなさそう。さすがにオカ研だからね、これくらいなら分かるけど……。そう考えるとジャンル難しくないかな。例えば『暗闇坂の人喰いの樹』って、ジャンルはミステリーだと思うけど、ホラーって言われればホラーでもあると思うんだけど。逆に『ソウ』はサイコホラーって感じだけど、ミステリ的文脈もあるでしょ。この辺の判定はどうなってるの?」
「先輩がそういう陰キャなことを言い出すのは分かっていました」
「後輩がひどい」
「なので、このサイトを使います。ジャジャーン! 天下のKADOKAWAが作った稀代の名webサイト『カクヨム』です! なんとオープンして5年も経ってる上に、登録者数も右肩上がり!!」
「知ってるよ。去年も使ったし……。まあいいか。ユーザーインターフェースも完璧、非の打ちどころがない神サイトだね。登録ユーザーは全員【魂】のレベルが自動的に一段階上がって、来世ではもう少しマシな人生を送れることでもおなじみだ。その『カクヨム』がなんだって?」
「簡単です。このサイトから作品名を読み上げます。正誤判定は、その作品を作者がどっちにジャンル分けしたか、で決めます」
「……なるほど」
 岩井が納得したところで、内藤はお茶を淹れなおす。岩井はお茶を一口飲んで、言う。
「オッケー。わかった。やろう」
 内藤は、どこか暗い笑顔を浮かべて答える。
「では始めます。『言葉ヲ紡グモノ』。これはホラー? or、ミステリー?」
「言葉を紡ぐもの、かあ……。うーん。なんか、人形とかが急に喋りだす話だったら、絶対ホラーだよねえ」
「あらすじの一行目を読みますね。
”偶然訪れたペットショップで、彼女は一羽のオカメインコと出会う。 “」
「え、言葉を紡ぐものってインコってこと? かわいいじゃん」
「これ以上はノーヒントで。さあ、これはホラー? orミステリー?」
「インコが出てくる作品にホラーはない。三毛猫ホームズのインコ版だろう。これはミステリー!」
「……残念! これはホラーです」
 そう言って、内藤は岩井にスマホの画面を見せる。
「ええー? あ、本当だ。ていうかこれ、カタカナ表記だったのか! しまったなあ。聞けば良かった。カタカナ表記だとちょっとイメージ変わるよなあ。くそー」
「ちょっと惜しかったですね。どことは言いませんけど。それじゃあ、最初のペナルティです。2020年8月2日、午前0時。あなたはどこにいましたか?」
「去年の8月2日……の午前0時? に、どこにいたかを答えるのが、『ペナルティ』?」
「はい。そうです。正直に答えてください。2020年8月2日、午前0時。あなたはどこにいましたか?」
「…………正確には覚えていないけれど……。多分、山の手公園を出たところかな……」
 どこかぼんやりした目つきで、岩井は答える。

「はい。分かりました。では、第2問! 『ドッペルゲンガーな彼女』。これはホラー? or ミステリー?」
 内藤の大声にびくり、と身を震わせて、岩井は答える。
「ドッペルゲンガー……。うーん。まあ、どっちもアリだよな。”本当の”ドッペルゲンガーだったら基本的にはホラーだろうけど、双子入れ替えトリック的な形でミステリーってのもアリ。あらすじは?」
「”わたしはこれで2本目なんですけど、あなたは何本書いたんですか?”」
「は?」
「なんか、身内での小説コンテストみたいなのがあったみたいですね。それに2本目を書いたということのようです。ちなみに、コンテスト名は秘密です」
「ううーん。ほぼノーヒントだなあ。まあ、メタ読みで行くか。2連続でホラーはない! これはミステリー!」
「残念! これもホラーです」
 スマホの画面を見せて、内藤は言う。
「では、次のペナルティです。その時あなたは、誰と一緒にいましたか?」
「その時は、一人だよ」
「わかりました。それでは第3問! 『貴方はこの本、読めますか?』これはホラー? orミステリー?」
「あっ、それはなんか見た覚えがあるな。なんかデスゲームみたいなやつだろ? デスゲームってことは、これはホラーじゃないかな。ホラーで!」
「残念ながら、ミステリーです」
「うぐぐ」
「それでは、3つ目のペナルティです。その直前に、あなたは、何をしていましたか?」
「………………………なるべく人目がつかないように……………して…………」
「何を、していましたか?」
「………なるべく人目がつかないように、成瀬さんを、林の中に連れて行ってたよ」

 ぱん。
内藤は手を叩いて、岩井に尋ねる。
「それでは、第4問。『ミステリーの書き方講座』。ホラー? or、ミステリー?」
「こんな安直なタイトルで、ミステリーのはずはない。ホラーだ」
「残念。ミステリーです。それでは4つ目のペナルティです。あなたは成瀬さんの息がないことをどうやって確かめましたか?」
「何……を、聞いているんだ?」
「あなたは、成瀬さんの、息がないことを、どうやって、確かめましたか?」
「どうって……、だって、あの時は。成瀬さんが僕の告白を断って。逃げようとしたから、手を掴んだんだ。何かやましいことをしようとしたわけじゃあない。でも、成瀬さんは勢いよく転んで……そこに石があって…………成瀬さんは動かなくなって……」
「あなたは、成瀬さんの、息がないことを、どうやって、確かめましたか?」
「だ、だって。その後、成瀬さんに『何をしても』、彼女は目を覚まさなかったんだ」
「なるほど。でも、実は成瀬さんは生きていたんです。あなたがすぐに病院に連れていくなりすれば十分に助かった可能性があります。だけど、成瀬さんは誰にも見つからず、体も動かせないまま、絶望の中で死にました。どうしてわかったか知りたいですか? わたしは成瀬さんの友達でした。大親友でした。だから調べたんです。
「成瀬さんの死因は、餓死だそうです。
「成瀬さんは、あなたに意識を失わされた後も、まだ生きていました。でも、体を動かすことはどうしてもできなかった。助けを呼ぶことも。誰にも気づかれず、痛みに耐えながら、彼女は最後には、餓えて乾いて死んだんです」

 岩井は虚ろな目で、うわ言のようにつぶやく。
「僕は……僕は、知らなかったんだ……。ただ、知らなかっただけで……」
「そう。あなたは知らなかった。だから、チャンスをあげたんです。さっきからあなたが飲んでいるお茶に入っているのは、特殊な自白剤です。あなたが『うしろめたさ』を感じたときに、その気持ちを増幅させて、本当のことを言わなくてはいけない気持ちになる。

「だから、わたしが出すクイズに答えられれば、うしろめたさを感じることもありませんでしたから、本当にあなたのペナルティは減ったんです。でも、あなたは1問も答えられなかった。これは天の意志だとわたしは考えます。天の意志で納得いかなければ、これが成瀬さんの意志だと。
「あなたはどう思いますか? 最終問題です。成瀬さんの意志だと思うなら、ホラー。わたしがあなたに当てられないように問題を選んだと思うなら、ミステリーです」
「ミス……テリー……なんだろう……?」
「いいえ。本当にわたしは、あなたにチャンスをあげようと思ったんです。本当に、残念です。これからあなたには、成瀬さんと同じになってもらいます。さあ。この薬を飲んでください」
 岩井は言われるがまま、その液体を飲みほした。岩井の身体は動かなくなったが、その瞳からは涙が流れ続けていた。
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「どうすか先輩! 今年の会誌に載せるやつ!」
「いいけど、なんでゴリゴリに僕の名前を使うんだよ」
「その方がリアリティがあっていいかと思って」
「しかも成瀬さんを殺すなよ。ひでえ殺し方だし」
「大親友だからまあ許してくれるかと思って」
「君の存在がホラーだよ……」
「ミステリアス、って言ってください」

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 この話は「現代ドラマ」とします。

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