手品見たんです。まあどうも有名な手品らしいんですけども、イケメンのお兄さんがサラサラーってやってるとカッコいいし、面白いんですよ。でワースゴイって言っておひねりちょっと渡して。
ほんで、そのあと飯屋でトランプ広げて、「あれってどうやってやってんの?」って話をすると、したり顔で同行人が説明するんですよ。これこれこういう種類のトランプが最初っからあるんですよ、みたいな。
でもね。もし仮に、そういうトランプがあるんだとしたら、おかしいぞと。何故なら俺はそのトランプを掴んだ記憶があるからです。左手でそのトランプ持ってたんだから、そういう種類のトランプだとしたら、流石に気づくでしょう。俺だってバカじゃねえんだから。
そしたらね。「本当に持ってましたか?」とこうくるわけですよ。何ちょっと怖い話みたいにして。いや持ってましたよ。持ってたじゃあないですか。持たないと書けないでしょ。
「いや、絶対持ってないですよ。こうやって、手品師の方がトランプの束ごと支えてたんじゃないですか?」
「いや、そんなわけはない。俺は絶対にトランプ持ってた。間違いない。全財産を賭けたっていい」
「くそー、動画を撮っとけば良かった。あれ、いや、待ってくださいね。左手でカード持って、右手でペン持ってたんですよね」
「そうだよ」
「で、なんか細い方ペンが出ないから、太い方で書いたらみたいなこと言われてませんでした?」
「ああ言われたね」
「そん時、どうやってキャップ開けました?」
「どうやってって……左手で普通に……」
「左手はカード持ってたんですよね?」
「……あれ?」
いやいやいやいや、カード持ってたってキャップ閉めたり開けたりくらいはできるでしょうよ、そらたしかに「ここでカード曲げちゃったら大変だから誰かに持っててもらお」とか一切思わなかったし、左手がフリーだったからなんも抵抗なくサラーっとキャップの開け閉めをしてたような気もするけども!! この記憶はアテにならない!!! なぜならさっきまで俺は「左手でカードを持ってた」と記憶してたんだから!!!
「典型的な自分は賢いと思ってて詐欺にあうタイプ」「なぜそんなに手品師側に都合の良い観客でいるのか」「こいつ絶対催眠もかかる」などボロクソに言われ、全財産も巻き上げられたので散々でしたが、でも楽しかったですね。特にその後の反省会っていうか、手品は本当に魔法vs手品にはタネがある派のなんの意味もない不毛な論争面白かったですね。ぜひ「いや本当に魔法なんだ」側に立って、ありもしない現象を証言しまくって、名探偵を混乱させましょう。
いやあの、緻密なトリックがあるじゃあないですか。関係者の証言がキモみたいなやつ。「確かにそのとき、○○さんは両手でトレーを持っていました。なのでベルをならせるはずがありません!」みたいなやつ。アレ、やる前に参加者の知的程度ある程度測っておかないと、俺とか混ざると、「いや、なんか片手で持ってた気がする」とか、「あんときテーブルに置いてなかったっけ?」とか言い出して全てが台無しになるか、名探偵が手がかりを見失って皆殺しが成立してしまったりすると思いましたね。殺すなら最初に俺を殺した方がいいと思いました。でも繰り返しますがほんとに面白かったですね。浮いたり爆発したりは、まあなんかそんななんやろなって思うけど、自分でカード引くやつは面白いっすね。また見に行きたいと思いました。