• エッセイ・ノンフィクション
  • 現代ドラマ

無題

「人生はすごろくみたいなもの、って言うじゃない」
「あんまり言わないと思う」
「じゃあ、神はサイコロを振らないって言うじゃない」
「それは聞いたことがあるなあ。なんだっけ、なんか神は物理法則とかカオス理論とか全部分かっちゃうからサイコロ振っても意味ないみたいな」
「あ、そうなの?」
「そうなの、って。まあいいや。何が言いたかったんだよ」
「つまりな、人はすごろくをするけど、神はすごろくをしない。なんでだと思う?」
「なんでって。いやだから、神はその、すごろくのラッキー的なところを楽しめないからとか、あとそもそも友達とかいるの神って」
「違うと思うんだよ」
「はあ」
「神は――時を遡れないんだよ」
「……どゆこと?」
「すごろくにさ。『交通事故に遭った。三マス戻る』とかってマスがあるだろ」
「……あるね」
「あれはどういうことだと思う?」
「どういうことって、その、なんだろう、マイナスのことがあったから、やり直す……え? 確かにどういうことだろうな、言われてみれば」
「なあ。おかしいだろ。すごろくは人生を模したものなのに、人生に存在しないはずの機能があるんだ。これは一体どういうことだ?」
「どういうことだって、前提が間違ってるんだろ」
「そう。前提が間違っていた。人生にも、不幸に遭遇したときにそれをやり直す方法がある。神は時を遡れない――遡っても、意味がないからな。自分で全部作っているわけだから、基本的に『不幸』はない――あったらそれを消せばいいだけだ。でも人間に不幸を消すことはできない。だから、それは人間だけに与えられた機能なんだ。だから神はサイコロを振らないんだ」
「ちょ、っと落ち着けよ。な――それは」
「頼みがある」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないだろう」
「言われなくたってそれを見れば――分かる」
「なぜ嫌なんだ」
「僕は殺人犯にはなりたくない」
「大丈夫だ。加奈子はこの世界がすごろくだという認識ができていなかった。俺は違う。俺はできている。この世界はすごろくだ。不幸があっても、やり直しができる。金銭的な不幸じゃあだめだ、ただお金を喪うだけだからな。命や身体を傷つけないといけない。『友達と喧嘩をして大けがをする。3マス戻る』――なんて、ありそうだろ」
「ありそうではあるけど、そんなことねえよ。認識の問題ではないんだよ。落ち着け」
「だったら。だったら、お前に託そうか」
「あ?」
「隆。いいか、認識だ。認識しろ。この世界はすごろくだ。お前にとって不都合なことが生じたら、お前は――やり直すんだ。マスを戻って」
「や、やめろ」
「お前が俺を刺さないというのなら、俺がお前を刺すよ。『おかしくなった友人に刺される。5マス戻る』俺の計算では、1マスが概ね1年だから、5年遡ることになってしまうが――まあ勘弁してくれ。そして加奈子を――助けてやってくれ」
「そんなマスはねえよッ! やめろ、やめろー!!」
「認識しろ! この世界は、すごろくだと!」



「……それで、成田君を刺した……って、わけか。なるほど。確かに、成田君は松田さんが交通事故で亡くなった後、常軌を逸した行動をしていたようだ。古今東西のすごろくを集めたり――ね。わかった。もう少し捜査が必要だが――そして本来私から言えることではないのだが、でも、安心しなさい。これは正当防衛だよ」
「……いえ」
「ん?」
「僕は――僕には、できなかったんです」
「できなかった? ……ああ、うん。そうだよ。キミには人を刺すなんてことは、できない。そうだ。そう考えてもいい。とにかく今日は――」
「違います。僕は確かにやり直しをした。だけど、だけど――サイコロのコマは、他のコマに介入ができないんですッ! 僕は何度もやり直したんだ。5年間待って、加奈子を呼び止めた。それでもダメだったから、身柄を拘束した。誘拐もした。でもダメなんだ。どこにいても、何をしても、加奈子はトラックに轢かれる。加奈子のコマに起こった出来事は変えられないんだ。刑事さん。僕はね。あなたに会ったことがありますよ。山本警部、ですよね。娘さんが2人いて、ペットの犬の名前は『ホシ』――」
「な……なんだって?」
「なぜ知っているか教えてあげましょうか。僕は加奈子を刺したんです。僕が加奈子を殺せば、この世界がすごろくだって認識させたうえで加奈子を殺せば、コマに介入できると思ったからです。でもダメだった! あれだけ刺したのに、あんなにズタズタにしたのに、加奈子は一命をとりとめて――そして、結局トラックに轢かれたんです。あの時僕を取り調べてくれたのも、あなたですよ、山本警部」
「……キミは疲れてるんだよ。少し――少し休むといい」
「そうさせていただきます」

 パタン、と留置所のドアがしまる。
 彼はひとりごちる。

「友達に大けがをさせて、刑務所に入る。一回休む――か」









 すごろくの「〇マス戻る」って人生で言ったら何に当たるんですかねっていうことを聞きたかっただけなんですけど、なんですかねこの話。オチがなー。オチがもう少しなー。なんかいいオチあったら教えてください。

3件のコメント

  • える、しってるか やおいの「お」は「オチなし」の「お」だ

    このコメントにいみはない
  • 一回休みは停滞を意味して
    戻るは、失う事を意味してるんじゃないかと思っていました。

    ふふふ、すごろくの言葉に意味がある。
    俺も、そう思ってた時期がありました。
  • くろちゃん 豆しか食べない死神は手が赤い

    ジョセフの旦那 戻るは「失う」は結構それらしいというか、いいですね。正しい解釈って感じがしますね。日常系マンガのすごろく回が妙に好きなので、意味を考えちゃいますよね。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する