• エッセイ・ノンフィクション
  • 現代ドラマ

大切なことを最初に言おう

 モスのオニポテおいしい、という文言を見て、昔の体験を思い出したんです。というのは俺もオニポテが好きで、特に「オニ」部分が好きなんですが、あのオニ部分って2個しか入ってないじゃあないですか。もっと食べたいよ!! でもポテトはLにできるけど、オニオンフライはLにできない。辛い。この世には絶望しかない。

 そんなことを思って世を儚んでいたころもあるんですが、実はあのオニオンフライ二個ってたぶん緻密な計算に基づいて設定されているんだと思うんですね。それが今日言いたい、一番大切なことです。

 どういう計算か、というと、ある時5人くらいでモスバーガーに入ることがあって、俺は「オニオンフライめっちゃうまいよね!!!」「でも足りなくてこの世は闇と絶望に覆われているよね」みたいな話をしたわけですが、あんまりそこまでみんなピンと来ていない。それで、じゃあってんで、俺がその「セット」部分は奢りましょうと。5人だから結構な値段ですよ。で、ポテト部分は好きに食えばいい。ただ、お前らみたいなオニに対する愛がないやつらにくわれるオニがかわいそうだ。俺が食う。それでどうだ。

 わりと「は?」みたいな顔をされたんですが、とにかくそういうことにして、俺は計10個のオニを入手したわけです。我が世の春とはこのことだ、と思いました。

 ところがですね……。

 めちゃくちゃ悲しいことに、もう4つ目ともなると飽きるんですよ。別にいいなそんないっぱい食わなくても、って感じになる。

 つまりこういうことだと思うんです。

 100点満点で一個目のオニオンフライに点数をつけるとこれは100点です。間違いない。ところが、2個目、3個目となっていくと、この点は下がっていくんですよ。95点、80点、75点、60点くらいまでぐっと落ちて、まあそっからはキープするんですが、何しろ60点にまで成り下がってしまう。「秀」だったものが「可」まで落ち込むんですよ。これは悲しい。食べられない悲しみより、食べて真実を知ってしまった方がより悲しみが深くなる。そういうこともあるんだなと思ったんですね。

 で翻ってオニオンフライを思い出してください。
 ポテト袋から、一個目のオニオン(大)(100点)が飛び出している。当然我々はそれから食べ始めるわけですよね。で、「うまい」「これがネクタルだ」と思って、二個目(中)を食べる。この時、実はこの中は95点になっているんですが、しかし、サイズが小さいので、「あーなくなっちゃった」「悲しい」「もっと食べたいなあ」と思う。そうして、200点フルスコアを取り切って完全なる満足・充足を与えてオニポテと決別させるのではなく、195点で、「あーあとちょっと食べれたらなあ」という気持ちを持たせて退店させる。そうするとどうなるかというと、今度またモスにいってオニポテセットを食べたいなあ、という気持ちが自然と湧き上がってくるんだと思うんですね。そのために、「あのサイズで」「あの個数」のオニポテセットというものは存在するんだと思うんです。だからきっと、モスの上層部が会議に会議を重ね、人間心理の専門家とかも雇ってあれに決定したんだと俺は信じているんですが。

 それでね。これ俺の夢の中にしかないのかもしれませんけど、こういうなんかこう、トレンド、トレンドっていうか、一見関係ないことに基づいてモテを語るカルチャーって一時期流行りませんでした? ない? ほんとに? いやなかったんでないんでしょうけど。

 というのは、これを活用して考えますと、「モスのオニポテに学ぶ『モテる女子』のデート術」みたいな記事が余裕で一本書けると思うんですよ。

 オニポテについてのうんちくを語る。
 ちょっとモスへの取材ターンも入れる。
 で、「あなたもオニポテのオニのように、一回目のデートで全部出し切るんじゃあなくて、195点にとどめておくのがコツ!」みたいな文で〆る。

 できそうでしょ? できると思うんですよ。できたからどうだ、ということは言わないでくださいよ。今そういう話はしてないんで。

 ただねえ、どうも「モテ女子」みたいなキーワードで調べてみると、まずもうちょっと全体論的というか、直截に「モテ方」について入る記事が多いんですよね。オニポテの魅力を語る! とかで一段落使ったら、たぶんそこでブラバされちゃうんでしょうな。世知辛い時代になったものです。みんな生き急ぎすぎてませんか。

 だもんで、最初「モスのオニポテに学ぶ『モテる女子』のデート術」っていうタイトルで近況ノート書いてやろうかと思ったんですけど、別に俺はデート術について語りたいわけではなく、「オニポテのあの量っていうのがベストなんですよね、モスはすごい」という話がしたかっただけであって、そのために「モテる女子のハウツー」記事を読み漁って文体のエッセンスを抽出しようという作業は無駄すぎるな、ということに気づいたので、やめたんですけど、『美味しい話』&『恋の話』ってこういうことですよね? チャレンジした方がいいかな。ちょっと考えます。

2件のコメント

  • めちゃくちゃ笑いました。つぼ。
    チャレンジしたほうが絶対いいです。
    っていうか「モスのオニポテに学ぶ『モテる女子』のデート術」よみたかった・・・
  • 「あたしなんて、ポテ子ちゃんみたいな100点満点の、とびっきりの魅力がないの!! もうほっといてよ!」
    「違うんだ、オニ子ちゃん。100点満点である必要なんてない。いや、むしろ100点じゃあない方がいいことだってあるんだ。僕が教えてあげる。『モスのオニポテに学ぶ"モテる女子"のデート術』を!」
     で結果このアドバイスした男と付き合う話ですね。

    「モスのオニポテに学ぶ"モテる女子"のデート術」言いたいだけちゃうんかな、という気はちょっとしてます。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する