「たまにあるんですけど…」
そう言いながら手際よく室内のエアコンをバラす彼。
何がたまになのかは聞かないし、言われたところでわからない。
もちろん先程の室外機側に問題があると断定した彼を責めたりなんかしない。
別に彼が言ったわけではないけど、
「室内側に問題が無いとは言っていない」
そういう風に変換するに決まってる、僕。
だって彼可愛いもの。マジで学校ではモテただろうなってイケメンなんだもの。
それと少し影のある表情もいい。
しかしいったい何歳なのか。
それとなく聞くと、18。どうやら高校には進学せずに修理屋さんに入ったそうな。
見た目から不安はあったけど、段取りを見ていれば手慣れているのがわかる。
はいギャップ。
キュン。
違う違う。
あまり仕事の邪魔はしたくなかったのだけど、何故進学しなかったのか聞いてみた。
「なんか面倒で」
そう言って、さわやかに笑いながらなんかコードとか線とかごちゃごちゃした、それこそだいぶ面倒くさそうなパーツを引き抜いた。
聞かれたくなかったのだろうか。
そう思った僕の額に親指の爪くらいのサイズの金属片がピチっと当たった。
クリップみたいな形状だった。
彼も見えてなかったし、可愛いし、キュンだし、もちろん文句なんて言わない僕。
黙ってそのクリップみたいなパーツを渡すと、これこれこれだこれといった表情にまたもやキュン。
違う違う。
どうやらこのクリップこそが元凶だそうな。
「え、でも室外機──」
「このクリップが噛んでなかったんですよ。緩んでますね。ほら」
ついどんなリアクションするのか気になって、責めてしまいそうになった僕の言葉を彼が素早くインターセプト。
危ない危ない。
職人には気持ちよくお仕事してもらわないとね。
そのクリップみたいな何かを彼はペンチで軽快にハミハミハミハミ。
そして取り付け、コンセントイン、スイッチオン。
「これで終わりです。ほら、ははっ、動いた」
「おお…!」
そうしてエアコンは無事に動き出した。
ひんやリィィィ! すぅっごーい! 素敵ィィィィ!
「はは。良かったです」
そう言って笑う隠れムキムキ君。
曰く、どうやら接触不良だった模様。
ムキムキ君の管轄では触らない箇所らしく、普通はわからないですよと、少し誇らしくしている彼にキュン。
違う違う。
あかんあかん。
そしてムキムキ君の施工の悪さを遠慮しつつも指摘し、ところどころ直してくれる隠れムキムキ君。
今思えば、管轄は違えど、仕事に誇り持ってそうなのは隠れムキムキ君の方だった。
やはりムキムキは隠れているに限る。
違うか。
涼しいし何でもいっか!
彼にお礼とサインをすると、朗らかな笑いを浮かべて去っていった。
ああ、最高、冷える。快適、気持ちいい。
この一連の災難を振り返りながら椅子に座ったまま伸びをする僕。
そしてようやく気づく。
「…………配管は…?」
そう呟いた、僕だった。
◆
それから身体が激サブになった僕。
設定温度が18℃になっていた。
仕事をしていてすっかり忘れていたのだけど、すぐに隠れムキムキ君に配管の件で電話した。どうやら持ってきていたパーツが合わなかったらしい。
ひたすら謝られてしまった。
まあ僕も機体番号わからなくて言わなかったし、仕方ない。
どうやらまた彼に会えそうだ。
そう思って室外機を見上げた。
「今日は七夕か……」
だけれど、室外機の底の穴と、天を突く配管は、まだドッキング出来そうになかった。
というか、何かエロい。
というか、何かしらのエロを感じたのは、きっとこの暑さのせいだと思う。
いや、10代の、隠れムキムキ君のせいだと思い直した。