こんなところまでお読み下さり、ありがとうございます。
外伝の後書きです。
本編より約5年前、14~15歳のビーヴァが、成人する話です。
冒頭の神話は、アロゥ氏族とシャナ氏族の起源と刺青の由来を語るもので、私の創作です。しかし、人間の発想は似通っていますから、世界のどこかには、似た話があるかもしれません。
生命の起源が天にあるとする思想は、シベリア~アラスカ、北欧~北極圏の先住民族に多くみられます。月や星やオーロラ、雷、夜空そのものが、起源と考えられています。
『妻問いの歌合わせ』の風習に関しては、北方の狩猟民族だけでなく、中国の少数民族にも似た習慣があったと思います。いわゆる恋歌であるだけでなく、家系を表し、血族婚を避ける目的で行われます。
作中のエビとロキは恋愛で、タミラとケイジは集団お見合いのような場面で、歌合わせを行いました。本編中では、ビーヴァは「ロコンタ族の娘を紹介してもらう」ことになっており、これは親世代の決めた婚約ですが(キシムとディールもそう)、どの形態の婚姻であれ、互いの気持ちを確かめるためには歌合わせを行う、という設定です。
本編では、ビーヴァに『自分の歌』をうたう機会はなく、キシムに(かなり強引に)誘われていますが、これはキシムが半分は『男』なシャム(巫女)であり、夢占いなわけで、彼らにとっては異例です。
不器用なビーヴァがどんな歌をうたえたかは、作者にも謎です。
ビーヴァの父・ケイジは、本編では既に故人です。名前すら登場していません。彼に関しては、アロゥ氏族に嫁することが決まっていたタミラをひきうけた人物であり、ラナにとってはもう一人の父であり、ビーヴァとエビにとっては師匠であり……という風に創っていきました。基本的な性格は、本編で死んだビーヴァの延長線上にあるつもりです。
父親に死なれる思春期の息子というパターンは、別のシリーズで書いたことがあります。ビーヴァとケイジには、心理的な葛藤はありません。ビーヴァは父を尊敬しており、ケイジは息子を一人前の狩人として認めたところで死別しました。
これ以降、ビーヴァは名実ともに大人として、母とラナを支えて生きてゆくことになります。
なお、この作品の時点で、エクレイタ族の開拓団はロマナ湖に到着しており、森の異変は始まっています。ゴーナが暴れたのは、その最初の兆候でした。
『不思議な小太鼓』と『雷神と白樺』には、ソーィエは登場していません。ビーヴァの相棒は、ケイジの死後、父の犬と狩猟道具を葬らなければならなかったビーヴァにエビが与えた、生れて間もない仔犬という設定です。
時系列上、本編より前の外伝は、この二つです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。残る二編もお読みいただければ、幸いです。
2017年3月(初出)
2017年7月
作者 拝