• 異世界ファンタジー
  • エッセイ・ノンフィクション

『掌の宇宙』最終話 解説

《アメリカ先住民・ナヴァホ族》

 彼等自身の呼称は「ディッネ(=Our People)」。アメリカ南西部、アリゾナ州・ニューメキシコ州・ユタ州・コロラド州の境界に広がる、合衆国最大の居留地に暮らす、ネイティヴ・アメリカン最大の部族です。居留地(ナヴァホ・ネイション)内に約20万人、地域外に約10万人が暮らしています(同じ居留地内に、ホピなどのプエブロ諸族も住んでいます)。

 女系中心の氏族社会(クラン)を持ち、銀細工、ナヴァホ織り、砂絵、バスケットなどの伝統工芸が有名です。また、ジョン・フォードの映画『駅馬車』をはじめ、多くの西部劇でアパッチ・インディアンの役を演じたのは、この部族の人々です。

 もとは狩猟採集を生業としていましたが、スペイン人が持ち込んだ羊と馬を得て、牧畜中心の暮らしになりました。アパッチ、ラコタ、シャイアン族などとともに白人と戦った勇猛な部族でしたが、連邦政府に降伏した後は、居留地に押し込められ、度重なる土地と財産の没収、収容所生活、強制労働などにより、人口は激減しました(当時の人口の約30%が死んだと言われます)。

 1968年の公民権法により、居住権の自由を認められ、居留地の中だけで暮らす必要はなくなりました。しかし、福祉や教育・医療などの面で経済的に自立できず、連邦側の政策に翻弄される機会が多くなっています(ウラン採掘の問題など)。

 住民の大半はキリスト教徒となっています。貧困や失業、虐待やアルコール依存、伝統的な宗教・文化の喪失、母語の喪失による世代間の断絶(老年世代はナヴァホ語しか喋れず、若年者は英語しか理解出来ない)、白人社会との軋轢に悩む若者の高い自殺率など、深刻な社会問題を抱えています。

 クランから外れ、孤立した者にアルコールや虐待などの問題が多く(本作品のドーン・イーグルの家庭のように)、クランに組み入れて支援しようとする動きがあります。

 ナヴァホのメディスン・マンには、祈祷を行い聖歌(チャント)を歌って儀式を司る「ハタヒイ」と、薬草を使って病人を癒す「アゼル・ヒニ」が存在します。彼等の治療は、アルコール依存症に効果があり、カウンセリングを重視するアメリカ社会で注目されています。

 ディッネ・カレッジ(族立大学)は、1969年、ナヴァホ族の伝統文化の継承を目的に創立されました。これをきっかけとして、合衆国内の多くのネイティヴ・アメリカン部族が、族立大学を創り、現在33校にまで増えています。

(本作品は、ナヴァホ族の創世神話の一部に基づきます。作品中、彼等や他民族(白人やユダヤ人)を貶める言葉がありますが、病気や貧困・虐待に苦しむ登場人物の感情を表現するためであり、作者自身には、特定の民族・文化を差別する意思のないことを明記させていただきます。)

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する