《山形県最上郡大蔵村 肘折温泉郷》
山形県は、秋田県に次いで民話の多い県で、約四千話あると言われています(秋田県は、約五千話)。肘折温泉郷は、月山(がっさん)から流れ出る銅山川の川沿いにある温泉で、約千二百年前(大同2年・807年)に発見されたと言われています。新潟と並ぶ日本一の豪雪地帯です(3~6m積もります)。
山形県の有名な民話としては、『笠地蔵』、『貧乏神と副の神』、月読命を月山へ案内して鳥海山を噴火させた『三本足のカラス』(八咫烏・太陽の化身)、チベット民話の影響かと思われる『びっき(かえる)の嫁さん』などがあります。
「ででぽっぽ」とは、山形弁で鳩の鳴き声を表し、そのまま「山鳩」を意味します。
■出羽三山と山岳信仰(修験道)
出羽三山とは、山形県の中央部を北から南へ連なる羽黒山(436m)・月山(1984m)・湯殿山(1504m)の総称です。第三十二代崇峻天皇(在位587 ? ~592)の子・蜂巣皇子(能徐太子)が開山したといわれています。
古来「山」そのものを神とする信仰があり、これに古代日本の神道(古神道)や祖霊崇拝、仏教・道教・陰陽道、役小角の密教(雑密)や真言宗・天台宗・禅宗などが加わり、「本地垂迹」(神仏習合)の思想や即身仏崇拝なども影響して、複雑に混ざり合った宗教形態が「修験道」です。出羽三山の他にも、大峯山(吉野~熊野三山)、比叡山など、全国各地にあります。
出羽三山を修行場とするものは、羽黒修験と呼ばれます。春夏秋冬の四季に羽黒山から入山し、月山での修行を経て湯殿山で終えます。
修験者は山中に寝起きして修行することから「山伏(山臥)」と呼ばれます。笈を背負い、錫杖や三独鈷・金剛杖・数珠を持ち、頭襟(ときん)や斑蓋をかぶり、引敷という獣の皮・法螺貝・梵天・檜扇といった装束を身につけ(不動明王の姿だといわれます)、独特の「山伏ことば」を使います。五体投地や断食・瀧行・山駆けなどの厳しい修行を行うことによって、死とあの世を経て生まれ変わるのだと考えられています。
山伏は出家僧ではなく、俗界に生き、修行によって験(山河の神の力)を身につけることで、人々を助けるとされました。妻帯している者もいました(里山伏)。
明治政府による民俗宗教の弾圧によって、一時は壊滅的な打撃を受けましたが、現在も毎年入山・修行する人々がおられます。かつて月山は女人禁制でしたが、昭和25年以後、女性の入山・修行も認められています(即身仏には、女性のものがあります)。
月山神社には記紀神話の月読命(月夜見命:ツクヨミノミコト。イザナキ命の子で、三貴子(天照大神・月読命・須佐之男命)の一人、月・暦・海などの神)が祀られています。湯殿山のご神体は、熱湯が湧き出る巨岩です。
(肘折温泉郷は、私の父の郷里です。本作品は、昭和50年頃、祖母から聞いたものに基づきます。人柱伝説(死)と再生がセットになっているところは山岳信仰的だと考え、山伏を登場させました。喜三郎が唱えたのは、光明真言(大日如来へ呼びかける最も重要なマントラ)です。芭蕉が羽黒修験を行った元禄ごろの風俗を想定し、方言は最上弁(新庄弁)のつもりですが……ご容赦下さい。)