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『掌の宇宙』第7話 解説

《中央アジア:アムド・チベット族》
 チベットとは、インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突して形成された平均海抜4300メートルの高原地帯を言い、南はヒマラヤ、北は崑崙、東は横断山脈などに囲まれた広大な地域です。東北のアムドと、ラサの北方には、17世紀に移住してきたオイラト系モンゴルの人々が暮らし、他にもモンゴル系、中国系、イスラム系の人々が暮らしています。

 チベットの人々は、「ツァンパを食べる民族」だと自分達のことを定義しています。言語はシナ・チベット語族のチベット語で、サンスクリットを起源とする表音文字のチベット文字を使います。

 仏教は、八世紀にインドの導師パドマサンバヴァによってチベットへ伝えられ、ソンツェン・ガンポ王によって確立されました。チベットの人々にとって、仏教(大乗仏教)は価値観の基本であり、生活と切り離せないものになっています。

 1912年の清国滅亡以後、ダライ・ラマ政権はチベットを独立国だと主張し、中国側は中国の一部だと主張しています。

 1950年、中国人民解放軍が侵攻。1951年、「十七か条協定」が締結され、チベット全域が中国の統治下とされました。

 1956年ごろより、民族の抵抗運動が激化します。

 1959年、ラサ市民による民族蜂起が中国によって弾圧され、ダライ・ラマ14世を含め大勢のチベット人がインドへ亡命しました(1989年、ダライ・ラマ14世は、その非暴力主義が評価され、ノーベル平和賞を受賞しました)。現在、約十万人のチベット亡命者が、インド・ネパール・ブータンなどで暮らしています。


■本文解説

注①:チベット各地にある石積みの仏塔で、花の代わりに馬の絵を描いた旗を捧げます。周囲には、「オン・マニ・ペメ・フム」と刻んだ石が多く積み上げられています。これは、チベットの人々が経文をいれたマニ車を回しながら唱える、観世音菩薩のマントラ(真言=神に対する呼びかけ)です。元はサンスクリット語で、意味は「ああ、蓮華の上にある宝珠よ、幸いあれ」です。

注②:たん茶(お茶の葉を板状に乾燥して固めたもの)を削って煮出し、塩・ヤクのバターを入れてかき混ぜて作るお茶のこと(攪拌器を「ドンモ」といいます)。一日に何杯も飲むことがあります。

注③:多羅菩薩、別名ドルマ(ターラー菩薩)。チベットの人々に人気のある菩薩さま。白と緑のターラーがあります。

注④:ツァンパ、伝統的な主食。

注⑤:チベットの民族服(チュバ)。上衣あるいは外套。ゆったりした筒袖があり、腰を帯で締めて裾丈を調節します。アムド(東北チベット)、ウ=ツァン(中部)、カム(東部)、ンガリ(西部)で少しずつ形が異なり、着物風の胸元の打ち合わせをアムバク(物入れ=懐)といいます。

注⑥:祭りや宴会の場で、娘を気に入った若者は、彼女の帯や他の装身具を取り、相手が夜に彼と会ってくれれば返してやると約束する風習があります。(この物語では、若者は妻帯者ですので、関係ありません。娘達が噂しているだけです。)

注⑦:魔法を使う不思議な動物が「皮を脱いで」人間になるという話は、チベットに多くある民話のパターンです。動物は「白い雄鶏」であったり「犬」だったりしますが、共通するのは、祭りの日に人間の姿になって現われ、正体を見破られた配偶者(人間)に動物の皮を燃やされて、以後は人として暮らす、というところです。こういう物語は、「完全な人間」への転換を求める人の精神的な苦悩を表すとも、本文にあるように、「すべての生き物は皮(姿)が違うだけで、みな同じ本質を持っている」という仏陀の教えを表しているとも言われています。
 蛙や蛇は、再生や復活の象徴・精霊(ナーガ)だとされています。

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