村上春樹先生の世界観が好きな私は、淡々と語られ、古いアルバムに残された一枚の写真のような描写に憧れています。
今回初めて小説を書くに当たって、一番書きたかったものが祖母の空き家でした。
実際二十年以上崩れずに残っていた家。現実にはもう取り壊されて無くなってしまったけれど、奇妙に私の中に残留している〝異物〟。
漫画にできれば良かったんですが私にその才能はなく、長い間脳裏の奥の奥、深い部分にありながら瞬時に呼び出せる不思議な記憶でありました。
3話以降は大幅な脚色が加えられていきますが、可能な限り実体験を継ぎ接ぎしながら書きたいと思っています。
人ではなく土地や家に残るもの。
言葉を発さないけれど意識に近いものを持つであろうもの。
それは人間の勝手な思い込みに過ぎませんが、長く人に愛された家もまた人を恋うる存在になり得るのではないかと思うのです。
架空の世界、自分の内側だけに存在する世界を文章で構築するのは私にとってかなりの難関です。
自分の欲求で書きたいだけ、とは言っても書き手が納得できなければ読み手の方に伝わるはずもない。
そんなこんなで拙いながらも少しづつ書いていきたいと思っています。
私から離れた「私」が何を見、何を体験していくのかを。