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Athhissya 第二回本棚企画 終了報告

第二回の本棚企画は「村上春樹好きな人の書いた小説」を募集しました。今回も最後まで残ったのは2作品だけになりました。そのうち1作品は入賞辞退ということになりますのでこの場での紹介は差し控えます。

旧募集リンクはこちら
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093077241907908?order=published_at

総評
死を主題として扱う作品が多かったですね。けれど死について何か哲学的な議論を起こすのって難しいことではないんです。むしろ誰にでもできるとすら言えます。何故なら口のある生人たちは、他人の死を観察することはできても、自分の死を観察することはできないからです。よって死もしくは死後の世界を主題に取り扱うと、想像力を膨らませて書かざるを得なくなり、誰でもそこそこ深い小説が書けるようになるのはそうなんですが。死について書いた小説であるというだけでプロデビューができてしまうとしたら、世の中、小説家になれない人なんていません。

判定基準
今回からは気分によって作品の評価が変動してしまわないように、非公開ではありますが明確な評価基準を定めて審査しました。コンテストであれば当たり前のことですね。私はカクヨム初心者の個人ですので。以下に挙げる3つは、私が思う「村上春樹」らしさの一例です。

①登場する物体を精選するフェティシズム
②相対的で客観的な価値判断をする主人公
③作中に宿る複数のテーマが明確に読み取れる

他にも村上春樹らしさの要素はありますが、今回はこの3点を評価の基準としました。それを満たしていたのは2作品だけだった、と言うわけです。

①については、題材なんでも良かったです。村上春樹は作中に登場する車や音楽や映画や本に対して、なぜそれをチョイスしたかというこだわりを感じさせる文章を書くことが多いです。後に紹介する「いわし文具店」では、登場する文具についての説明が詳細に記述されています。

②についてですが、これは私が好きなライ麦畑とか、グレート・ギャツビーとか、20世紀のアメリカ文学に多い(勉強したてなので不正確な知識かも)主人公の傾向ですね。いわゆる信用ならない語り手の1つなのですが、「主観的な語り」をするから情報に信用が無いのではなく、「相対的な語り」をしようとするあまり、語る内容に一貫性がないから信用ができないのです。一貫性の無さの判断基準については、トラブルシューティングレベル3の「文章に隠し味を入れるには」を参照してください。
https://kakuyomu.jp/works/16818093075666037277/episodes/16818093076754566090

③総評にも述べたとおり、死との向き合い方を取り扱った作品が多かったです。しかし、それだけ。な作品も多かったです。明確に伝わってくるテーマが1つだけになっている作品は本棚から削除させて頂きました。2つ以上のテーマを上手く絡めて物語を動かしてく。Pixiv時代の後半から私はそういう複軸の小説を書くようになりましたが、前半の1年半くらいは1本の軸だけの小説ばかり投稿していました。それはそれなりに面白い作品が出来上がるのですが、もっとステップアップしたいならば、私の作品とか、私が本棚に残した作品を読むと良いと思います。

さて、今回紹介するただ1つの入賞作品は まもるンち さんの「いわし文具店」です。
https://kakuyomu.jp/works/16818093076451894210
以下に私のレビューを掲載しておきます。

「村上春樹好きな人の書いた小説」という企画から読みにきました、Athhissyaです。本棚に推挙された他の作品の多くは暗いとこが単に暗く、明るいとこは単に明るい語り口が多かったのですが、この文章はひと味違いました。暗い部分に愉快さを挟み、明るい部分に毒を挟んでいるナラティブが多く見られます。どっちつかずの心理をうまく描写できていて、感情のグラデーションが素晴らしい作品ですね。
 そして、どのエピソードにも「死」のテーマが色濃く影を落としていますね。これも他の小説と読み比べたときに、例えば「死をどう扱うべきか」という単一のテーマだけにフォーカスしている作品が多かったんですね。しかし、この作品では最初に生きている人間の模様を描き、話の中で死のモチーフを導入する構成を取ることで、より深い「死とどう向き合うべきか、かつどう生きていくべきか」というテーマが伝わりやすくなっています。
 個人的には第3話がお気に入りです。応援コメントにもあった通り、今後も創作活動を頑張ってほしいなと思います。とんでもない良作のご紹介、ありがとうございました。

リンクは上に示した通りですので、気になった方はぜひ読んで上げてください。

最後に第三回本棚企画の告知をします。「言葉選びに注目して欲しい小説」の本棚です。今回は本棚に残れる作品の判定基準を明確に公開してみます。リンクはこちらです。
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093077816604007

よいお年を

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