文章に隠し味を入れるには

①「今日みたいな朝から爽やかなそよ風に吹かれ、気持ちの良すぎる日差しが照りつけるクソ暑い日には、満杯の氷が入った、レモンの飾り切りで華やかな黄色に彩られたグラスへと、ガラスの瓶のコーラを注いで、一気に飲むのにうってつけの日だ。」


コイツから「クソ暑い」という4文字を抜いてみましょうか。


②「今日みたいな朝から爽やかなそよ風に吹かれ、気持ちの良すぎる日差しが照りつける日には、満杯の氷が入った、レモンの飾り切りで華やかな黄色に彩られたグラスへと、ガラスの瓶のコーラを注いで、一気に飲むのにうってつけの日だ。」


どうですか。①と②では文章の印象が大きく変わってきませんか。どう違うのかというと、②は「今日」に対してのプラスの評価しか記述をしていませんが、①には「クソ暑い」というマイナス評価が4文字だけ書き加えられているんですよね。


以前コラムにも書いた通り、言葉は文字数は多くなるほどに意味が重くなります。逆に文字数を少なくするほどに意味は軽くなります。そして今回のテーマである「隠し味」とは、意味の軽い言葉を挿入することで文章に奥行きを、具体的には修飾や形容に客観性を与えるテクニックのことです。


記述する対象の修飾にプラスの評価を示す言葉だけを書いているのが②で、①には「クソ暑い」というマイナス評価の隠し味が挿入されているのが肝で、これにより「今日」という日の評価が[完璧ではないが満足するには十分]なコンディションであることが読み取れると思います。


③「今日みたいな朝から爽やかなそよ風に吹かれ、気持ちの良すぎる日差しが照りつける、でも汗だらっだらで下着が張り付いて不愉快な日には、満杯の氷が入った、レモンの飾り切りで華やかな黄色に彩られたグラスへと、ガラスの瓶のコーラを注いで、一気に飲むのにうってつけの日だ。」


③では「クソ暑い」を「でも汗だらっだらで下着が張り付いて不愉快な」という形容詞節に置き換えました。これだとマイナスの意味が重くなりすぎて、隠し味として挿入することに失敗していますね。隠し味は目立っちゃいけません。だから文字数を少なくするのです。あくまでマイナス評価にも目を向けたうえでのこの高評価なのですよというポーズをとるためのテクニックなのですからね。


隠し味に入れる言葉も選んだ方が良いです。例えば①の「クソ暑い」を「灼熱の」に置き換えるとすると、「灼熱」という言葉自体はプラスの評価もマイナスの評価も付随していない、ただ現象を表現するだけの語彙なので周りの言葉の属性に当てられてプラス的イメージに組み込まれてしまいます。なので、その文章で描きたいこととは正反対の性質を描写する単語を探してみるのが、隠し味のコツです。試してみてください。

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