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02:もしもし、あのね

『…………これで、おしまい。ねぇ、面白かった?』
 可愛らしい声が語った物語は、とても綺麗な物語かと思われた。
 しかし、実際はそんなことはなく、全てが終わったときは何とも言えないやりきれなさを残すもので。
「なんて言うか…………物騒な話だな」
 感想を言うのが苦手過ぎて、ぶっきらぼうな言葉しか出てこない。
『……そっかぁ……』
 自信があったのだろうか。良い反応を返してくれると思っていたらしい女の子が、あからさまに落ち込んだ声で溜息を吐く。
『じゃあ、次はもっと面白いお話を聞かせてあげるね』
「あ、うん……」
 反射的に答えてしまった返事。言った後で我に返り、慌てて言葉を続けようと口を開くが、時既に遅し。
『今日は楽しかった。じゃあね! まこちゃん』
 言いたいことだけ一方的に伝えた彼女は、こちらの言葉を聞くこと無くさっさと電話を切ってしまった。
「……………………」
 通話の切れた通信機器。受話器の向こうから聞こえてくる音は、楽しそうに笑う女の子の声では無く、虚しく響く機械的な音だけ。
「……次は……って……また、かけてくるつもり……なの……か……?」
 この電話はただの間違い電話のはずだ。それなのに、また今度とはどう言うことだろうか。
「……やめやめ! さっさと仕事終わらせて帰ろう」
 これ以上考えても良い事なんて無い。気持ちを切り替えるように首を振ると、用の無くなった受話器を元に戻し再び作業に戻る。今日の就寝時間は日付変更線を越えてしまうだろう。そう考えると感じていた疲労はより一層色濃くなった。

 翌日も、相変わらず忙しい状態は続いている。途切れることの無い業務に追われ、気が付けば就業時間なんてとっくに過ぎてしまっていて。
「お疲れ様でしたー」
 一人、また、一人とフロアから消えていく人の姿。そしてまた、一人きり。モニタに向かった状態でカタカタとキーを叩いてどれくらい経つのだろうか。
「…………ふぅ……」
 最後の一行を打ち込み終わったところで作業の手を止める。
「んっ」
 女子社員から差し入れで貰った有名店の焼き菓子。作業中に囓っていたため、その量は半分ほど減って軽くなっている。その残りを囓りながら、冷たくなったコーヒーを味わっていると、ふと携帯端末のデジタル時計の数字に目が止まった。
「九時過ぎかぁ」
 今日は昨日よりも少しだけ早く作業が終わった。このまま何も無く帰宅出来れば万々歳。あとはこのデータを保存しPCの電源を切れば、防犯装置をセットして全ての業務が終了。帰りにコンビニによって何か食べるものを買って帰るとしよう。
 そう考えると残り時間は頑張れる。小さくなった焼き菓子の欠片を口の中に放り込み、再びモニタに向き合ったときだった。
「プルルルル……プルルルル……」
 静まりかえったフロアに響くコール音。デスクに置かれた電話機からは、受信を知らせるように赤いランプが点灯している。
「……………………」
 まさか。
 そんな言葉が頭を過ぎる。鮮明に思い出されるのは昨日の記憶。
『また、明日ね』
 そう言って楽しそうに電話を切った女の子の言葉が思い出される。
「……………………」
 この場合はどうするべきなのだろう。提示された選択肢は、昨日と同じ二つだけ。電話を取るのか無視するのか。
「今日は早く帰りたいし……」
 そう自分に言い聞かせて電話を無視し、作業を再開しようと手を動かすのだが、全く切れる事の無いコール音が電話を取るようにと催促を迫る。
「…………チッ」
 結局は相手の思惑通り。鳴り止まない雑音に耐えかねて受話器を取ると、想像した通り受話器の向こう側から女の子の可愛らしい声が聞こえてきた。
『やっととってくれた! あのね、あのね』
 電話を取って貰えた事がよほど嬉しかったのだろうか。女の子の声はとても弾んでいて楽しそうだ。
「で、今日は何?」
 取ってしまったからには一応話をきいてやる。要件は何だと先を促せば、彼女は少し考えた後で、こんな話をし始めたのだった。
『今日はとってもステキなお話なんだよ……』

今日のお話はね…………(第2話/缶コーヒー)
https://kakuyomu.jp/works/16816927860567586273/episodes/16816927860567602988

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