毎日残業が続いている。
繁忙期のため仕方が無い話ではあるが、定時を回っても帰宅が出来ない状況が続くと、流石に疲労を感じる度合いは高くなる。
「…………はぁ」
机の上にはエナジードリンクのアルミ缶。飲み過ぎには注意したいと思いつつ、それは既に二本目が空になっていた。
「うー…………」
何度も何度もモニタと指示書を往復しミスが無いかをチェックして回るのだが、何度やっても見落とし箇所があることに流石に気が滅入ってきた。いっその事プリントアウトしてチェックした方が早いのではと思いながら、ギリギリまでモニタ上で確認を続けてしまうのは、紙の使用量について上司にネチネチと言われ続けた結果論だろう。
嗚呼、面倒臭い。
そうしてまた、無意識に三本目のアルミ缶へ手を伸ばしたところでふと我に返る。
「……流石にこれ以上は拙いか」
エナジードリンクの過剰摂取は健康に悪いと方々から言われているのを思いだし、開けそうになったアルミ缶をそっと机に戻すと、代わりにブラックの缶コーヒーを手に取る。カフェインを取ることでまた今日も、就寝時間が後ろに伸びるのだろうなという溜息と共に。
一人、また一人とフロアから人が姿を消していく。もしかしたら、今日も最後の一人は自分になるのかも知れないと再び溜息。それから数時間かけて、やっとの思いで最後の一行を修正し作業は完了。
「ふわぁぁ……」
かけていた眼鏡を外し、右手の親指と人差し指で目元を軽く押さえて目を休ませる。眼精疲労から来る小さな頭痛が煩わしくて苛立ってしまう。早く終わらせて帰宅したい。家で待っている草臥れたシーツの掛かったベッドですら、今は愛おしくて仕方が無い。
「あと、もう少しで終わる……」
ラストスパートを決めるため、すっかり冷たくなってしまった缶コーヒーの中身を一気に煽ると、再びモニタへと向き直った。
『プルルル……プルルル……』
「うわぁっ!?」
しんと静まりかえったフロア全体に響く着信音。こんな時間に電話がかかってくるなんて、一体どう言うことだろうと内心焦る。作ったデータに不備でもあったのだろうか。嫌な考えばかりが頭の中で回る。
「……どう……しよう……」
電話と取るのか取らないのか。選択肢はたった二つだけしか用意されていない。正直に言えばこの電話は無視をしてしまいたい。だが、感じてしまう責任感が、無意識に受話器へと手を伸ばさせる。
「……はい」
結局、受話器は自分の耳元へ。恐る恐る送話口に話しかけると、受話口の向こう側から予想外の声が聞こえてきたのだった。