二十年前

 二十年前の僕は、少々凝ったミステリーツアーの真っ最中で、自分の誕生日なんてどーでもいいというか、自分だけ周りのみんなより年かさなのに、更に歳を重ねるなんて、「なんてばかばかしいんだ」とおもっていた。

 だから、手慰みに転がしていた六面体にメッセージを書かれて祝われても「いや、こーゆーのいーから」と素で、本音を漏らした。

 すると「素直じゃない」とか「人の気持ちがわからない」とか「いつまでもかっこつけてないでみんなと向き合おうよ」とかいわれた。

 大勢に一遍にいわれると、それ以上言葉を返す気力も失い、「そうだね、ははは」と愛想笑いでその場を済ませることにした。



 幾つになっても子供でいる僕は、まさか二十年後も下っ端会社人間でいるとは思わなかった。

 ましてや、鬱にとりつかれて身動きが取れなくなるなんて想像も付かなかった。



 だから、これからの二十年間で何が起こるかなんてわからないし、少なくとも夢のある未来を描ける状態じゃない。

 それでも。

 生きている以上は、希望を持てるような状況の中ですごしていけたら良いなと思う。



 二十年後、古稀を迎える時には僕に連なる家族が増えてるといいなと思う。

 そして、今よりもう少し穏やかな日常の中で、小説に向き合えていたら素敵なんだと思う。

 いま、飲んでいる薬のことを振り返ると、アルツハイマーで何も手に付かなくなる未来が見え隠れしてるんだけど。

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