永倉新八に続いて、歳三を主人公にした作品を執筆中である。
こちらも新選組は欠片も出て来ない話だ。「燃えよ剣」の例を出すまでもなく、歳三を主人公とした小説など山のようにあるので、よほど新奇なアイデアなり切り口がないと、お約束のパターンになるのは、目に見えている。
実際、トンデモ設定以外のもので、斬新な小説には一度もお目にかかったことはない。
となると、やはりあまり記録が残っていない、歳三が石田散薬を売り歩いていたころの空白期間が物語をでっち上げるのに適しているのではないだろうか?
嘉永から安政のころの歳三の行動は、ほんの数行の記述以外ほとんど残されていない。いや、あるにはあるが、それは伝聞だったり、それを記した者の主観だったり、史実と呼ぶには、いささか根拠が薄弱である。
たとえば歳三が奉公に行ったとされる松坂屋に、その証拠が残っているという話はきいたことがないし、人別に奉公と書かれていたとしても、それは第三者的な調査結果ではなく、自主的に書かれたものなので、けっこういい加減なことが多く、まるごと信じることはできない。
今のところ、冒頭の数章しか書きあげておらず、発表はしばらく先になるが、舞台となる場所の取材を着々とすすめている。
いい加減なことは書きたくないので、たとえば歳三が入った店から別の場所に移動するにしても、空想ではなくその町になにがあり、どういう町並みだったのか、そういうところまで調べているので、なかなか話がすすまないのが困りものである。