「それで? 日がな一日活字を並べ続けた事に有意義さを見出せたかい?」
「これは手段に過ぎず、手段に対して人間は有意義さを見出したりしない」
「…とんだ屁理屈家もいたものだ」
僕の妄想の産物の自称悪魔は、愛も変わらず僕の行動の生産性の是非についてばかり関心を寄せる。
「屁理屈も理屈だ」
「『anather logic』だと主張するわけか。それもまた屁理屈だな」
ペフレカは季節外れのコタツに篭って専ら角の手入れなどしていた。お陰で小さなコタツに僕の入る余地はなくなってしまっていた。主人を差し置いて特等席を独占する使い魔とは、実に扱いづらい限りである。
「エアコンの設定は24.0℃くらいが丁度良い具合だと私は思うけどなぁ」
「コタツに陣取るお前にはそうだろうな」
「このエデンに足を突っ込んでいなくとも私は同じ事を告げるさ」
「そうか。なら黙ってコタツの温もりを噛み締めていろ」
僕はリモコンに浮かぶ28.0の文字を24.0へと下げ、クローゼットから埃塗れの冬物を羽織った。僕の言動と行動に突っ掛かってくるのは是非もない事ではあるが(客観性は常に重要なファクターだからだ)、せめて作業に集中出来ている刹那くらい孤独に浸しておいて欲しいものだ。
それとも、深層意識内の僕が休息のタイミングだと告げているのだろうか? 人間の意識という奴は多層構造で、世界を認知している人格以外にも表層に出ない人格(人格という単語が適切であるか僕には判別がつかない)という奴があるらしい。
他ならぬ自分自身のオーダーであるならば従って吝かではないのだが、気に食わぬ悪魔の微睡んだ顔が僕を密かに操っているように思て癪に触る。どうせ癪に触るのなら、ペフレカのはだけた豊満な癪にしたいところである。
「ふぅ〜暑い暑い」
これだ。癪について考えていると、僕の心の内を見透かしたように行動する。ぴっしりとした上質な白シャツのボタンをまた自由にして、窮屈そうに佇む癪をペフレカは見せつけるように解放した。
「下着は黒なんだな…」と下らない感想が浮かんだところで僕は、またキーボードを忙しく鳴らし始めた。