幸田露伴の「蒲生氏郷」を読んでみると、これも戦国時代の話でなかなか蒲生氏郷が登場せず、じれったい気もしたが6割ほど読み終えた。
個々のエピソードが面白いし、何より文章に含まれる独特の、柔らかいクニャクニャした調子がよく、テンポが気持ち良い。
途中、細川ガラシャ夫人の夫の細川忠興が出てきて、昨日読んだ「胡桃に酒」ではほとんど嫉妬の塊、塊というより鬼、ほぼ狂気の人だったがこちらでは常識人だった。
考えてみるとバルザックの「同じ人物が別の小説に再登場するシステム」と、歴史・時代小説の作家がそれぞれの戦国武将をそれぞれの角度から書いているというのはほとんどそっくり、同じことをしている。
司馬遼太郎だけでも複数の作品に信長、秀吉、家康他の武将を出しているので、その上、山田風太郎や幸田露伴の描いた秀吉を読み比べるというのは奥が深い。
それなら同じ人物が悪鬼として登場し、別の作品ではまともな常識人になるのも当然といえるし信長、秀吉なら尚更、振り幅が大きくなるのも頷ける。
戦国武将で、信長に謀反を起こした荒木村重という人がいる。この人は司馬遼太郎が戯曲にしていて、遠藤周作も長編を書いていて、直木賞の「黒牢城」もこの人物を扱っている。謀反を起こしても勝ち目はなく、家族は皆殺しにされ、それでもなぜか当人は生き延びたという不思議な人物で、歴史の隙間にこんな人がいるのかと驚いた。