北村薫の「水 本の小説」は以前にも読んだ。また読み返したくなって再読している。
この小説は分類上は「私小説」となりそうだが、エッセーとさほど変わらない内容で、「謎があってそれを解く」という意味ではミステリである。それでも、実在の本や人物が出てくるのでフィクション要素は入っていないのではと感じられる。
題材も実在の人物で、謎も現実の範囲で、もともとこの人のミステリは「日常の謎」と呼ばれるくらいなので、そう特別な感じはしない。
しかしはっきりと「小説」と称しているので、
「フィクションとノンフィクションの垣根が消えたような味わいを描く小説」
なのだともいえる。
こうなるとジャンルとは何なのかという気になってくるが、仮にもフィクションであれば「偶然」を避けなければならない。
「偶然、こんなことがありました!」
「都合よすぎるだろ!!」
となってしまうが、私小説やエッセーなら、
「偶然、こんなことがあったのです」
という部分にはストレートに、素朴に「それは珍しい!」とか「よかったですね!」と反応ができる。
どうもフィクションにすると、それだけで読者は度量が狭くなるようで、そういう意味では心静かに、素直に読める。