最後まで読むと、やはり記憶の通りあまり後味が良くない。
ただ以前読んだ時と違って「ここまでは平家物語」「ここからは手塚治虫の創作」という線引きがそこそこ自分でもできるのが大きな違いだろうか。
終盤で源頼朝と源義経が対立するくだりも、実は「火の鳥」をめぐる噂話に翻弄されてのことだったのだ、としていることに今回はじめて気が付いた。
結局、清盛だけでなく木曽義仲も、頼朝、義経も主要な人物はみな偽の火の鳥と噂に翻弄されて死を迎えることになる。
しかも、死に際も酷いケースが多くて、ヒョウタンカブリという少年キャラは有名なエピソードと合流してすぐ死んでしまう。その後も義経関連のエピソードで主人公の家来が死に、ヒロインもあっさり死んでしまい、義経と主人公も激しく対立して殺し合う。
記憶では丸太で顔を潰される義経の描写があったはずだが、明らかにそこは描き直されており、矢を受けて死ぬことにされていた。
ここは「俺たち、どうしてこんなことになっちまったんだろうな……」としんみりさせて、涙のひとつも浮かべてから「ガクッ」と来る流れが定石のはずだが、そうならない。
残った主人公は最後に後ろ姿で奥さんを背負って、その後ろ姿でお終い、でいいはずが「その後の行方は誰も知らない」的なナレーションに添える絵が白骨死体なので、絵の方がずっと多くを語ってしまっている。
これがもし単独で映画として公開される物語だとしたら、いかなる大監督としても成功作とは見なされないだろう。ところが「火の鳥」は連作長編なので、常に他の作品と込みで「全何巻のうちの一巻(または二巻)」という扱いで図書館によく置いてある。
だから乱世編は不人気作で異色作ながら、そして内容的にはいわば「偽物編」でありながら、作品の寿命としては「火の鳥」と同じくらい長くなる筈、という奇妙な作品なのであった。