久々に丸谷才一の本を読んでいると、大岡昇平は「末期の眼」で世の中を見ていたとか、小説の主人公たちが皆、戦争帰りなので残りの人生を「余生」と見なしていたとか、そうした主張が身に沁みてわかるようになった。
自分が最初に読んだ大岡昇平の作品は「歩哨の眼について」で、これは小説らしくない、硬質な文章で書かれたエッセーのような短編だった。
「お前たち、目よ、これを見きわめねばならぬのか! おれたちはこんな遠目がきかなくてはならぬのか」
というフレーズを読むと、目さんとしてはドキッとしてしまう。
ところで人生を「余生」と見なす視点は「ハムレット日記」になると違う気がする。
ハムレットは戦争体験のように大きな経験を通り過ぎているのではなく、先に「やらねばならないこと」が多く待ち構えていて、ためらっている状態なので、立場的には逆なのだ。