「章と章の切れ目は一定の行を空ける」という構成にしてみると、急にページの区切れが変な感じになって、一枚の紙の最後に「第4章」という3文字だけが来てしまうこともある。
そこで、その前を一行増やすとか、二行ほど減らすなどの必要が生じる。
これを書き足したり減らしたりしているうちに、表現が磨かれることがあるので、そういう直しもそこそこ楽しい。やりがいがあるというか。
夜は、山田風太郎の「笊ノ目万兵衛門外へ」を久々に読み返した。
「私は人間の諸行動を笑わず、嘆かず、呪うこともせずにただ理解することにひたすら努めた」 (スピノザ『国家論』)
山田風太郎の小説には、この人間観に通じるものがあるような気がする。「ひたすら努めた」ですらなく、ごく自然に目に映り、ごく自然に理解したという力みのなさが感じられる。
山田風太郎の小説は、いつも欲望や暴力や奇想が大きな渦を巻いていて、それでいて静謐で穏やかな視線がある。文章も素っ気ないほどで、いかにもやすやすと、さらさらと書いたような自然な文章である。