大江健三郎が影響を受けたというガスカールの短編「真朱な生活」を読んでみたら、本当に大江健三郎の初期作品の雰囲気、文体にそっくりで驚いた。
羊や牛の屠殺の描写、皮を剥いだり、血が流れたり、そして子供が粗暴な大人の暴力にさらされたり。
短編一つで、
「惚れてまうやろ!!」
と叫びたくなるほどで、これならもっと読んでみたいと思った。
ところが、この短編が入っている岩波文庫の「けものたち・死者の時」についてブログに書いている人の感想を読むと、おおむね不評で「つまらない」「暗い」などと書いてある。
こういうギャップはどこから来るのだろう、と悩むくらい自分の評価は高い。
ただ、
「初期の大江健三郎にそっくりだー!」
という驚きを差し引くと、そんなに喜ぶような話ではないのかもしれない。
ピエール・ガスカールの本は現在、ほとんど現役の本としては書店にない。
けれども「ブルータス」の村上春樹特集では、手放せない本の筆頭にガスカールの「街の草」が挙げられている。
それに「けものたち」というタイトルは安部公房の「けものたちは故郷をめざす」とか倉橋由美子の「蠍たち」を思わせもするし、60-70年代にはかなり有名だったのかもしれない。