中学の頃から筒井康隆の小説もエッセーも読んでいるが、断筆宣言以降は関心が薄れていたので、長編を読んだのは久々かもしれない。
この小説は、通常はまず小説家でも使わない古語や、死語に近い言葉が散りばめられているので、言語実験的な側面もある。しかし、そうした障害をほとんど感じさせないレベルで違和感がなく、スラスラ読めた。
昔から筒井康隆は格別に文章が上手いと言われていたが、当時は「プロの作家だから一定以上の上手さがあるのは当然では……」と感じていたものだが、今になるとその格別な上手さというものがよく理解できる。わざわざ書くとくどくなるようなことは書かないし、適度に端折っている匙加減が分かるので、その辺りが見事だと感じた。
ドラマ性の面でも、アイディアの面でも、時事風俗の取り入れ方の面でも、非常に優れている。書くのに5年ほどかかったという話なのに、読む方は3日で読んでしまったのが申し訳ないくらいで、新聞連載で発表されたものは連載で読むべきとも思った。
ついでに「不良老人の文学論」も読んだ。これは推薦文やエッセーなどをまとめた本で、谷崎賞や山田風太郎賞の選評が面白い。
特に谷崎賞は「直木賞レベルならOKだが、それよりこっちの基準が上なので駄目」という線引きが確かにあるだろうなと思わせる評で、ためになる。
なぜか日本の報道では芥川賞と直木賞ばかりが一大事という扱いだが、格上の賞をもっと宣伝材料にすればいいのにと感じた。