365作品
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「今日こそ決着をつけるぞ」颯爽とランドセルを脱ぎ捨てたタケルは、使い慣れたそれを取り出した。ダガーナイフのように小さく構え、ツヨシの胸元を狙う。
老婆が数人の男性によって、車へ担ぎ込まれている。何事かと集まる群衆にへこへこと頭を下げているのは、老婆の息子であった。車、もとい大きなバンには、介護施設の文字がプリントされていた。
財界人に愛されたとされる彼の伝説のレシピは、この世から失われてしまったのだろうか。否、それは一冊のノートとなり、自宅の金庫に保管されていた。
俺は叫びながら全裸で商店街を疾走していた。事の始まりは10分前。いや、本当の始まりは半年前か。ケンジと付き合っているカノコと酔った勢いで男女の仲になった俺は、そのままずるずると体…
「ネギがこのペースだと腐ってしまいそうです。あと鶏肉ですね。もう、安いからってあんなに買ってくるからですよ」「すまん、つい。その他には?」
「もちろん見たわよ。どこに行っても、その話で持ち切りじゃない」街はずれの喫茶店。女子大学生の2人組は他愛のない時間を過ごしていた。珈琲の香りが漂う中、ベストを着こなした初老のマス…
全人類が森羅万象と未来を自在に予知できるようになった。指名手配中の強盗犯は思った。「警察の追跡ルートを予知すれば絶対に逃げられる……
そのニ、それを各家庭に迅速に運搬する。いいかい、大規模災害の後に必要なのは、つまりこれだ」白衣をまとった科学者はそう説明した。インターンの学生は懸命にメモを取っているが、あまり捗…
でも仕方がないのかもしれない。彼もいい歳だし、こういうの、加齢臭っていうんだっけ。初めて出会ったのはもう随分と前のことだ。
入った瞬間から、汗がじんわりと滲み出す。口の中の水分が一気に持っていかれたようだ。持参のサウナマットを敷き、ゆっくりと腰かける。姿勢を正しく、流れ落ちる汗を真っすぐに感じられるよ…
あらかじめメールで送られてきたパスワードを打ち込むと、カシャと音がする。鍵が開いたようだ。ドアを開けると、思いのほか中は暗かった。照明は点かないのだろうか。しかし、実際にその部屋…
「いいから早く!君はこの場から避難しなさい!さあ!」突如現れた大怪獣が街を蹂躙していた。避難警報、泣き叫ぶ子供の声、パトカーのサイレン、車の防犯音、地響き、降り注ぐ瓦礫の墜落音、…
大学に進学して、そこそこの会社に就職して、結婚適齢期に結婚し、子を儲け、家を持つ。仕事に邁進し、あるいは専業主婦になり、慎ましい老後を過ごす。孫と笑い、趣味を嗜み、親族に囲まれて…
★6 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話 842文字 2022年9月22日 17:02 更新
やけに晴れた青空とは対照的に、それぞれの表情は曇っている。「逝っちまったな、黄島のやつ」「ああ、まさか彼が命を落とすなんて」
こうなっては財布も要らない。スマホだって、入ってしまえば繋がらなくなるのだ。余計な荷物だろう。少しの水と食料さえあれば、なんとかなる。そそくさと家を出て、繁華街へ繰り出す。人ごみ…
生徒会長に就任した清井きよい正雄ただおは、その長身に宿る端正な顔に笑みを浮かべた。自慢の教え子の躍進に、先生も鼻が高い。「しかし先生、今回の選挙、実は私には大きな目的があるのです」
宇宙の彼方、N88星雲。通称「光彩の国」にて。銀河警備職員ウルティモマンは、キングと呼ばれる彼の上官と面会していた。「君は、地球という星で東郷《とうごう》秀雄《ひでお》なる男と一…
男性であるあなたがエレベーターに乗っている最中、故障が発生し、エレベーターが止まってしまいました。あなたの他に乗り合わせたのは、齢80のよぼよぼの男性と、二十歳のぴちぴちの女性、…
石ころほどの大きさのそれには、紐が結びつけてあった。途方もない高さから落下し、真下の高層ビルの窓に激突。複数人が軽傷を負う事態となった。
「ええ、まあ、ある意味そうと言えるでしょう。カラオケの楽曲を選ぶ際、辞書よりも分厚い本をぺらぺらとめくり、お目当ての曲を探し、そのコードをリモコンに入力するのが一般的です。しかし…
切り株神社と呼ばれるそこは、地元でも有名な神社だった。事の始まりは数年前。長い年月を経て直径数メートルの幹に育った大樹が、雷の直撃を受けたという。
君には俺よりふさわしい人がいるから、なんて、自分だけが気持ちのいい振り方。こんな男と付き合っていたなんて虫唾が走る。その優しい言葉がどれだけ小狡いか、自覚がないのが恐ろしい。「よ…
★5 現代ファンタジー 完結済 1話 3,493文字 2022年5月28日 17:46 更新
性描写有り 短編ショートショート#365日ショートショート
彼女は資産家の屋敷でメイドとして働いていた。仕える相手は、齢80の老人・天田典寿郎。一代にして莫大な財を築いたが、その正体は極度の偏屈。雇ったメイドが次々に辞めると地元では有名だ…
★7 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話 1,152文字 2022年1月31日 18:45 更新
医師はそう締めくくった。若夫婦は感心したように頷いている。「先生、もう一度だけ、確認したいのですが……」。尋ねたのは夫の方だ。「僕のお腹の中に赤ちゃんが移ってくる、という訳じゃな…
拳を握りしめ、意を決して役所に入ったものの、思いのほか機械的な対応だった。ふぅん、こんなものなのか。結婚三年目、男は妻と無事に離婚した。特に直近の一年は、妻に怒られてばかりだった。
その噂を聞きつけた男は、やっとのことで現地に辿り着いた。あらゆる手段を用いて収集した情報は無駄ではなかったのだ。裏路地にある寂れた雑居ビル。目の前の入り口、その奥には、例のカジノ…
「おっと、久しぶりにそんな言葉を聞いたよ。意味を説明してご覧」「詭弁を用いるな、という意味だよ。これは君を正面から罵っているんだぞ」
「なにぃっ!?」震える声の知らせを聞いた私は、大きく音を立て椅子から立ち上がる。つか、つか、つか。靴の音を響かせながら部屋を歩き回った。ついでに、持っていたパイプを指でくるくると…
白衣を着た男性は、物憂げな表情でカプセルを見上げた。人がひとり収容できる大型のカプセル。それはタイムマシンだった。「もう、未来の医療に賭けるしか……。それしか、方法が思いつかんの…
書店で気になった漫画を見つけては、販売サイトの星を参照する。家電量販店では、スマホ片手にレビューを眺めながら商品を選ぶ。
ゆっくりと周囲を見渡した。白い壁。白い天井。白い寝具。息をひそめ、ぱちぱちと瞬く。この独白は誰かに聞こえているだろうか。「病院だ。しかしなんでこんなところに寝ているんだ。いや、そ…