『公正世界仮説』という考え方があります。「世界は公正であり、良い行いや努力は報われるべきだ」という思想です。この考えには、私も少なからず共感します。しかし裏を返せば、「成果を得るには苦労して当然」「社会的弱者は努力が足りない」といった極端な精神論や根性論にも繋がりかねません。今年の流行語大賞に、高市総理の「働いて働いて働いて」が選ばれました。その背景には、「労働とはつらいもの」、「仕事には困難がつきもの」といった、根強い固定観念が表れているように思えます。一方、人手不足が深刻化する現場では、社員の定着率を高めるため、『ワークライフバランス』に加えて、「いかに楽しく働いてもらうか(エンジョイメント)」が、経営者にとって喫緊の課題となっています。もしかすると近い将来、「労働とは楽しいもの」、「楽しくなければ仕事ではない」という価値観が、当たり前のものになるかもしれません。そこで今回は『エンジョイワーク!』特集と題し、楽しく、意欲的に働く人々の物語を取り上げました。いまの仕事に悩みを抱える社会人の方々や、これから就職活動を迎える学生の皆さんが、少しでも仕事に対して前向きな気持ちを持つきっかけになれば幸いです。
三十路手前のDランク冒険者・レジナルド。彼がスカウトされたブロード商会の主力商品は、異世界ものではおなじみの「マジックバッグ」だった。落ちこぼれ冒険者が、これまでに培った経験と倉庫整理のノウハウを武器に、人助けに奔走するお仕事ファンタジーです。
冒険者としては鳴かず飛ばずだったレジナルドが、裏方に転職して得ていく仕事の手応えと、充実感が心地良いんですよ。
若き女性経営者ベルが営むブロード商会のマジックバッグは、異空間ゲートを通じてゴーレムたちが荷物を出し入れする魔法の物流倉庫だった。しかし内部では動線が衝突して、荷物は大渋滞。そんな混沌とした現場に配属されたレジナルドが、倉庫内の動線を整理し、停滞していた物流を一気に改善。さらに元冒険者としての経験を活かし、マジックバッグを通して冒険者に救援物資を迅速に届ける新たなビジネスモデルを提案し、冒険者たちを陰ながら救っていくんです。
やがて「ブロード商会のマジックバッグには、救いの女神(おじさん)が宿っている」という評判が冒険者に広まり、商会の業績は右肩上がりに。派手な活躍はなくとも、自分の仕事が人々を救い、世の中の役に立っている。仕事の実感が自分の誇りに変わっていく姿に心が浮き立ちます。縁の下で社会を支える裏方の人々へ、「ありがとう」と感謝したくなりました。
(「エンジョイワーク!」4選/文=愛咲優詩)
勇者に敗れて魔力を封じられた没落魔王アマリエ。低賃金重労働で身も心も疲れた彼女を癒やした一杯のポーションドリンク。それをきっかけに元魔王が経営者としての夢を目指し始めるドタバタ起業ストーリーです。
おバカで天然で、知識も常識もなく、何もかも未熟なアマリエが、夢と情熱で経営者として成長していく姿が感動的で、思わずボロ泣きしました。
貧困生活のなか、必死に歯を食いしばってスタートしたドリンク販売。アマリエのダサかわいいキャラが、たまたまSNSでバズって、徐々に事業が拡大していきます。協力者を募ってフランチャイズに乗り出すものの、品質の劣化、サービスの低下を招き、クレームが頻発。たちまち会社は窮地に陥る。本当に自分が目指したものは何だったのか……。苦悩と葛藤の末にアマリエがたどり着いた純粋な気持ちに胸を撃ち抜かれました。
この物語の至るところには、無邪気なアマリエの理想論が描かれます。彼女は確かに完璧な経営者ではありません。しかし社員が、顧客が、周囲の人々が思わず笑顔になる、みずから進んで支えたくなる。そんな理想の経営者です。世の中の大人は、本当はみんなこういう気持ちで働かなくちゃいけないんじゃないか! 現代の労働って実は間違ってるんじゃないか! そんな仕事への熱い思いが込み上げてくる一作です。
(「エンジョイワーク!」4選/文=愛咲優詩)
高校二年生の神山夏輝は、卓越した身体能力を持ちながらも部活動には所属せず、放課後や休日はアルバイトに励む勤労学生。そんな彼が働く家事代行サービス『Perfect Clearing』は、家事や雑事はもちろん、要人護衛まで請け負う最強の家政婦派遣会社だった。
表向きはどこにでもいる普通の高校生。しかし裏では最強のボディガード。主人公の夏輝が繰り広げるド派手なバトルアクションが痛快でした。
物語は、いわゆるエージェント学園ものの世界観。日本政府や警察組織が公に動けない事件に対し、夏輝たち特殊な戦闘要員が密かに対応していく。半グレ集団やストーカー、人身売買組織、さらには世界的テロ組織――。銃弾が飛び交い、ミサイルが炸裂する極限の戦場を駆け抜けながら、理不尽な理由で命を狙われる少女たちを守り抜く展開が手に汗握って盛り上がる。
危険と隣り合わせの毎日でありながら、夏輝は学生としての生活も決して手放さない。恋や友情、ありふれた平和な日常を大切に思うからこそ、守りたいって思うんですよね。たとえ仕事で傷つき、苦しむことがあっても、大切な家族や友人、幼馴染のために何度でも立ち上がる。そんな働くヒーローの勇姿が心に残る物語です。
(「エンジョイワーク!」4選/文=愛咲優詩)
女性騎手・結城エマは、デビューから一年が経つにもかかわらず、いまだに勝ち星ゼロ。故郷・北海道の牧場を思い、「次こそ勝たなければ」と自分を追い込み、必死になるほど焦りと緊張で気持ちが空回りし、結果は裏目に出てしまう。そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは、同期の天才騎手の風間翔だった。
気持ちだけでは、一人きりでは、勝利には届かない。競馬というシビアな勝負の世界で生きる男女の姿が、リアルに描かれていました。
勝利にこだわるあまり、自分が乗る競走馬の気持ちを見失っていたエマ。一方的に自分をエゴを押し付けるのではなく、馬と心を寄り添わせること。これって騎手と競走馬という関係だけの話ではなくて、どんな仕事においても、同僚や顧客との人間関係にも通じる、"仕事の心構え"を説いています。
自分が主張するばかりでは相手とぶつかってしまう。互いの考えを受け入れ、理解し合うことで、よりよい結果が生まれる。パートナーの気持ちを尊重し、ともに目標へ進む姿勢は、男女の付き合いにも欠かせない"恋愛の極意"なのかもしれない。
力を合わせ、ついに一勝を掴んだエマと翔。これからの二人にどんなレースが待ち受けて、どんな結末を迎えるのか。二人の恋の物語は、まだゲートを飛び出したばかりです。
(「エンジョイワーク!」4選/文=愛咲優詩)