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概要
暗証番号の向こう側に、私がいたはずだ。
藤巻忠雄、七十八歳。板橋区高島平団地でひとり暮らし。
スマートフォンのパスコード、銀行の暗証番号、マイナンバーカードの暗証番号——忘れるたびに手帳を開く。紺色の手帳にはすべての数字が書いてある。これさえあれば大丈夫だ。凸版印刷の品質管理部門で四十年、数字を紙に書くことで生きてきた男の、最後の砦。
だが認知症は静かに進行する。手帳を見る前に指が動き、古い番号を入力してしまう。ロック。エラー。「ご本人様からおかけ直しください」。デジタル社会の認証の壁は、ひとつずつ、彼の生活を閉ざしていく。
やがて手帳そのものが失われたとき、四桁の数字の向こう側にあった「自分」は、どこへ行くのか。
独居高齢者の日常を、認知症の進行とデジタル化社会の狭間から描く。
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